第3話 同じ血

「はいっはーーい!!お嬢さん体大丈夫??」


 ドアを勢いよく開けて入ってきた1人の青年。

 片手になにやら持っている。


「エンヴィ、丁度いいところに。これからお嬢様の館との契約を行うんだがよろしく頼む」

「あー...あれっすね」


 エンヴィと呼ばれる青年は私が座るベッドの横で跪いた。目線を合わせるようにしてニコッと笑う笑顔はとても眩しかった。


「お嬢さん、俺はエンヴィといいます。この館で調理を担当しています...てか、エリサ様そっくりすぎっすね...匂いも同じ」


 私に顔を近づけるエンヴィにバルトは鉄槌を下した。


「お嬢様に近づきすぎだ」

「もー! だからって頭殴らないで下さいよっ!」


 エンヴィはブツブツと悪態つきながらも「じゃあ早速契約に移るっす」と言った。


「お嬢様、契約の儀を行いますので少々ご移動お願いします」

「あっ...はい」


 私はバルトに手招きされながら館の中央にポツンとかけられている絵画の前に案内された。絵画はなんとも例えようがなく、色使いもめちゃくちゃだった。


「お嬢さん、この絵がなにか分かりますか?」

「...えっと、これは...」

「焦らないで、じっくり見てください。気持ちを落ち着かせて...」


 私は深呼吸をした。

 じっくり、ゆっくり、絵画を見つめた。

 次第に両目が熱くなり、不思議な声が聞こえてきた。


『...この気配はエリサか』


 声は絵画からだった。

 私は返答するように答えた。


「違うわ、私はリリー...エリサの娘よ」

『ほう......娘か......ではエリサはどこへ?』

「.....もういないわ」

『......そうか』


 絵画は突然大きな声で笑いだした。


『......くふっ、はははははっ!......死んだ?  ついに女王は死んだか! ははは! 』

「...あなたは誰なの?」

『俺はこの館の魂そのものだ......それを、あの魔女はこんな訳の分からない絵画の中に閉じ込めやがった!』

「...なにか悪い事でもしたの?じゃなきゃお母さんがこんな事するなんてありえないわ」


 絵画と会話をするうちにいつの間にか私のそばにいたバルトやエンヴィなど姿が消えていた。そして薄暗い空間に絵画と私だけがいた。


「俺は何もしていないさ、女王がこの館に来る前、別の持ち主がいた。俺はそいつがこの世を去ってからも言いつけ通り館を守り続けていたのをあの魔女が無理やりこの館に手をつけた...あぁなんて忌まわしい魔女なんだ」


 そう呟く声は、母のことを憎いと言いながらも悲しそうだった。


『みんな嘘つきだ...前の主人もその前も女王も...みんな約束を破る...契約違反をするんだ』

「約束って...?」

『簡単な約束さ_________俺より先に死なないことだ』


 気がつけば両目から涙が伝っていた。

 それはとめどなく溢れ、零れ落ちていく。


『俺は主人が死んでいくのを見るのはもう嫌だった、だから女王とも契約などしたくなかった...なのにあいつは絶対死なないなどと抜かし、何日も館に通いつめた』


 絵画の声は徐々に和らいでいき、壊れそうな何かを優しく包み込むように言った。


『そのような事をされたら嫌でも期待してしまう...女王だっていつか死ぬ、わかっていた事だ。なぁ娘よ、お前が俺の前に現れた理由も大方想像がつく...ここから出してくれるのであればお前を主として認めてやろう。そしてお前に忠誠を誓おう』

「...もちろん出してあげるわッ、でもどうやって?」

『それはお前次第だ。この絵に手をかざしてみろ、お前がエリサの娘であるならばこの魔法が溶けるはずだ...』


 私は涙を拭った。

 絵画に手をかざすと、ほんのり暖かくて鼓動を感じた。生きているのだ。この暖かさは母の温もりに似ていた。


『俺の心音に合わせて魔力を流してみろ』

「魔力だなんてっ...わからないわっ」

『まず体の力を抜け、そして頭の中でイメージしろ、暖かいものがこの絵に流れていくのを』


 私は深呼吸して目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る