甘い悪夢 1

 ――腹が減ったなぁ……。もう何日も食べていない。


 ――えている。


 ――たくさん人はいるのに。

 誰も夢をみない。欲がないやつが多い。……空虚な世の中だ。

 だからこそ、俺のハラが満たされることはない――。


 真っ黒な翼を、街のネオンが照らす。


 ──偽物の光など、足元を照らすあかりにもならないのに。空虚で愚かな街だ。しかし、ハラガ減ッタ。腹ガ……。


 黒い魔物はビルから、勢いよく飛び降りた。

 こらえきれずに、よだれを口から垂れ流す。


「ソウダ。美味ウマソウナヤツガイタナァ。モット失望シタラ、イイノニ。楽シイ楽シイ悪夢ガ、始マリソウダヨ♪」


 そのまま女性の、背後に忍び寄る。

 女性が振り返る。


 女性より背の高い、黒い魔物は笑った。


 次の瞬間、その姿は人間の形をしていて、青い瞳で微笑んだ。それはとても魅力的な笑顔。


 足元に映る影だけは、不気味な魔物を形作っていた。



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