星が見えない夜 1

 太陽が沈み夜に染まる空。その色は闇よりも濃く深い。星は見えない。

 人工的な目映まばゆい光が、夜の街を彩り始める。


 クラブ明晰夢のあるファッションビルの屋上に一人。壁にもたれ佇む者がいる。一見、人影のように見えるが人間ではない。そこには見たこともないような恐ろしい魔物がいた。


 夜空を見上げながら時折、地鳴りのように低く不気味な声で笑う。大きく開いた真っ赤な口には尖った牙が並んで光っていた。

 闇に溶け込むように黒く細い身体。指先には長く鋭い爪。蝙蝠こうもりのような形の大きな羽が黒光りしている。

 その魔物はビルの上から地上を見下ろしていた。


 夜の光に誘われるように一人……、また一人。

 誘虫器のようなネオンの光。眠らない街に人々がいざなわれるように集まり出し、溶け込んでいく。


 ビルの真下には、ハルキとヒカルがいて何かを話している。不気味な魔物はその様子を確認すると、音もなく飛び立っていった。


「近くのスーパーで買ってくればいいんじゃないですか」

「じゃあ、ハルちゃん買ってきてよ。二箱」

「……」


 華やかな雰囲気をまとう二人を通りすがりの人々が振り返る。ハルキは目の前にいるヒカルではなく空を凝視するように見上げている。


「ハルちゃん? 聞いてる?」

「…………」



 無表情で屋上と空を交互に見ると、ハルキはビルへと入っていった。


「ちょっと! 待ってよ。ハルちゃん」


 ヒカルは慌ててハルキの後を追いかけた。






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