ユメクイの白昼夢 3
昼間のファッションビル。平日の昼間とはいえ、客足は絶えず賑わう。人の波をすり抜けて最上階へ行くと飲食フロア。
ハルキがクラブ明晰夢に到着し店のドアを開けた瞬間。目の前にいたのはヒカルだ。
「「 あっ! 」」
お互いに顔を見合せると同時に、何かを言おうとして声が重なる。こんな時、会話の順番を譲るのはハルキだ。
しかしヒカルはただハルキを指差したまま何も言わなかった。
「何ですか……」
「ハルちゃん何か気付かない?」
ハルキは自分の身体を見回す。
「何も変なところないですよね?」
ヒカルは怪訝そうな顔をする。
「変なところはないけど、あるはずのものがないよ」
「?」
「……忘れてきちゃったの?」
急に慌てだすヒカルとは対称的に冷静なハルキ。
「そうですね。思い出しました。ヒカルの顔を見たら思い出したんですが……」
「はぁ? オレと何の関係があるっていうの? ていうか、どこに忘れてきたの」
「コンビニ」
「え? コンビニとか意味がわからないよ」
「コンビニで
「コンビニにあるの?」
噛み合わない違和感だらけの会話。ヒカルは頭を抱える。
「どうしちゃったんだよ。ハルちゃん……」
一時の静寂が二人を包みこむ。
「少しだけ見覚えがあるとは思っていたのですが。コンビニで会った女性はヒカルのお客様ですね」
ハルキの言葉にヒカルが反応する。
「はぁ? オレのお客さんと会ったって……。どういうこと?」
急にヒカルがハルキに詰めよった。必死な様子にハルキはヒカルをなだめようとする。
「いえ、しおり様とコンビニに立ち寄ったら偶然会っただけなので。偶然……」
ハルキは弁解のようなことを言い始める。
それをききながら深くため息を吐き、ヒカルは肩を大袈裟におとす。
「……そういうことか。何となくわかったよ。ハルちゃんは忘れてきたわけじゃなく、最初から持ってこなかったんだ」
何かに納得してうなだれるヒカル。今度はハルキが意味がわからないという表情をする。
ヒカルはハルキから離れ、カウンターにある椅子に腰掛ける。しばらく何かを考えていたがハルキを見るとため息を吐きながら話しはじめた。
「ハルちゃん、オレが訊きたいのはそんな話じゃない。なぜ、『何も』持たないで戻ってきたのかってことを知りたいのだけど」
「あ……」
そう。ハルキは肝心な物を持っていなかった。
「佐藤しおりさんの今回の『夢』はどこ? って訊いているんだけど、ハルちゃんの話でわかった。ハルちゃんは今回、『夢』を見せないで『現実』のままお客さんに会ってきちゃったわけだ。それは非常にまずいことだよ」
クラブ明晰夢は『夢』を売り物にしている。文字通りお客さんを『夢』に
女性が望む非現実的で理想的な甘すぎる『夢』を作りながら、その『夢』を半分いただく。
「偶然もなにも他のお客さんとは会うはずがないよ。だって、自分のお客さんはオレたちが作る夢の中にいるのだからね。ハルちゃん本当にどうしたの?
※『白昼夢』※
日中、目を覚ましたままで空想や想像を夢のように映像として見ていること。 また、そのような非現実的な幻想にふけること。 白日夢。
呆けたユメクイ。
うまいことを言った、とでも言いたそうに得意げな顔をするヒカル。口元には笑みを浮かべている。言葉の後半はフォローのつもりなのだろう。
ハルキは無表情のまま、深刻な面持ちで何かを考えている。
相変わらず店内には重苦しい空気が充満している。
耐えきれずにヒカルが何か言おうとしたその時だった。
「ぼくには、しおり様は無理かもしれない……」
ハルキは一言だけ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます