退路なき路

 やや城に近づいた、人気のない林。ハインが地図に記していたどの候補地とも違う、真の候補地。《転移》の術式をあらため、ハインは呪文の痕跡をならす。

「ダン、大丈夫か」

「どうってことはねえ……」

 口ではそう言うが、顔は正直だった。ルオッサは腰のポーチから古布を取りだし、手早くダンの肩を縛った。

「……呪文で治せねえのか」

「贅沢言うんじゃねェ。かすり傷だろ?」

 ダンは舌打ちすると、ハインを見た。ハインはその目に、分かっていると返す。

「今から城に潜入し、リタとウラを救出する。目的を達し次第、順次撤退だ。いいな」

「本来の目的はどォすンだ」と、ルオッサが鋭く問う。

「……二次目標に降格だ。直接、蒼紋兵を解析できれば最低限の手がかりは得られるだろうが……危険で手間がかかる。これ以上、誰かが欠ける危険は冒せない」

「おい、ちょっと待てよ! 潜入って……今からかよ。城には何重にも障壁と結界が張られてる。あれこれ準備しねえと、すぐに見つかって袋のネズミだぜ」

 オルゼリドの指摘に、ハインはうなずく。

「隠し通路がある。緊急時の脱出経路だが、外からも開くようになっている」

「隠し通路って……お前が城に仕えていたのは十年近く前だろ!

 とっくの昔に封鎖されてるんじゃねえのか?」

「それは――」

 言いよどむハインを見るに、ルオッサは躊躇した。

 けれど、ルオッサはその顔を見上げ、決断する。

「アタシにも、心当たりがあるぜ」

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