青き大水晶
おぼろげに輝く水晶が、天井から大広間を青く照らしだす。普段は何人もの近衛が詰めている謁見の間には、今やたったの三人しかいない。
「進展は?」
透き通った声で問うのは、どこか人間離れした美しさと、それでいて今にも折れてしまいそうな可憐さのある女性。彼女こそ“血花王”、血塗られた薔薇に
「進展というのは私の計画かね。――それとも?」
答えたのは、
「無礼千万。王の御前である。率直に答えよ、
簒奪の魔術師は、その声の主、黄銅の騎士を嘲笑った。
「その愚直さは誰に似たのかね。
マルガレーテ、どうだ。彼に私の刻印を与えるというのは」
不要、と女王は切り捨てるように答えた。
「何度、同じ問いに答えれば気が済む。伏竜将三人では飽き足りぬと申すのか」
魔術師は仮面の奥で笑った。
「私はただ、進言しておるのみよ。その方が有用だとな。
さて、進展か。サーインフェルクに動きはない。戦備を整えているが、あの数ではおまえの“
血花王は、透徹した瞳で黄銅の騎士と目配せする。
「
「必要ならば私ではなく、犬連中に仕込んだ“目”を使えばよかろうに。
――それとも、その“目”を覗くのは不快かね?」
簒奪の返答に、黄銅の騎士は剣の柄に手をかける。
「抑えろ、黄銅の。これでも私の師だ。まだ学ぶべきことはある。
簒奪の魔術師。貴様の目論見は私の
黄銅の騎士。
「存じあげておりますとも」
澱みなく黄銅の騎士は答える。
「ならば、良い。ゆけ」
騎士は右の拳を左胸に当てると、敬礼を解いて退席した。
「用は済んだかね」
ふたりきりになると、簒奪の魔術師は冷ややかに言った。血花王は杖をテーブルにあずけ、目を合わせない。
「……貴様は変わらないわね。あれから、もう十年も経つというのに」
仮面は、微動だにせず言う。
「言うようになったものだ。空虚な抜け殻だったお前が」
女王は、空白の表情で顔をあげる。けれど、既に魔術師の姿はなかった。
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