ゴシック的描写研究 玖回目

(約7ヵ月ぶりの更新です。まあ、不定期更新だし、この7ヵ月伊達に何もしなかったわけではないので、徐々に続けていきたいと思います。)


・「お嬢様、いつまで屏居紛いのことをしてるのです」――扉の向こうから、叩扉と共に、甲高くメイドの呼ぶ声が聞こえる。厭、私は外に出たくない。外に出るくらいなら、自身の目を抉剔したって構わない。四散して、芋虫になっても構わない。・・・・・・だというのに、カーテンをすり抜けるようにして、私に朝暘は差し込んでいる。ああ、陽とは――皆が感じ、諂う陽とは、まさしく蝉蛻なもの!


・荒廃し、朽ち、剥げた黒い壁を見ながら、彼女たちは恍惚な眠りについている。生を蹂躙する酸鼻なはずの臭いは、彼女たちにとっては香水のように芳醇なものになり、その甘美な眠りを深めていく。時折耳に入る、城の軋む音や、上の階の生活音などは、眠りし彼女たちに忠誠を誓うように呼応し、温かな寝息に変わる・・・・・・・。


・空を知らぬ雨は一人の王女の頬を伝い、輝く影へと吸い込まれていった。


・ヒンヤリとした地下の冷気が彼女の足元に纏わり付くように充満するさまは、今の彼女の心の蟠りを表しているかのようだ。


・伸び放題の木々が鬱蒼と道の緑まで迫っている。丸裸のブナの色褪せた枝は互いに絡みついて怪しげに抱き合い、頭上に教会のアーチのような丸天井を形作っている。

(『レベッカ(上)』 著 デュ・モーリア/訳 茅野美ど里)

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