ゴシック的描写研究 捌回目

・蟲が巣を造るのに適している、埃が舞う薄暗い廊下。


・シャンデリアが朧げに光を放ち、赤と青で装飾された薔薇型のステンドグラスと、巨大な宗教画。神に手を伸ばすようにまっすぐ伸びた尖閣アーチをくぐると、この屋敷の所有者が、いかにも豪勢な玉座に座って嗤っていた。


・堕落した天使――その言葉が言い得て妙なほど、彼女の二面性は優れていると言えた。天蓋付きのベッドの中で愛の契りを結んだかと思えば、次の瞬間、天使はその矢を相手の心臓に向ける。弾けた血潮は、彼女が咲かした深紅の薔薇のようであった。


・厳重な鉄格子の奥から、今にも消えそうなすすり泣きが聞こえてくる。ガチャリ、ガチャリと、足枷を引き摺る音がおどろおどろしく聞こえてくる。・・・・・・・いいや、違った。すすり泣きはすぐに、女の狂った哄笑へと変わった。足枷が立てていたかと思われていた音は、格子を女が揺らしている音だったのだ。


・お父様と向き合って食べる食事ほど、わたしにとって気まずいものはありません。お食事のマナーなんて分からないし、紅茶を飲む仕草一つに文句を言ってくるのです。会話も弾まず、弾む時といったら、今は亡きお母様との思い出話ばかり・・・・・・・。わたしの心が痛むことがわからないのでしょうか。


・お姉様が振り向いて、不思議そうに私をじっと見つめてきました。ルビーみたいに淡く輝く深紅の瞳が、今の私には太陽のようにさえ見えました。


・「月から白く垂れているのは何?」彼女が聞いた。「さあて、なんだろうね。お月様の涙だったりしてね」・・・・・・・その時の僕は気がつかなかった。彼女の言う白い糸のようなものが、僕の四肢に繋がっていたことに。


・埃に包まれたガラスケースに入る姉の姿を見て、妹は何を思うのだろうか。かわいそうだと思うのだろうか。うらやましいと思うのだろうか。人形が欠けた部品を探し求めるように、妹は姉の遺体へと手を伸ばした。


・死んでしまいたい――そう思い至った人間を、この複雑怪奇な屋敷は歓迎する。開く扉はどれもが冥府のように暗澹とし、ぶら下がるシャンデリアは宙の誘惑をし、敷かれた絨毯は抱擁を交わすように地の底へと引き摺りこんでいく。


・病的にまで白い肌を晒した彼女は、同じく白いドレスに身を包み、掌には美しい花をかかえ、苔の生える廃墟の中に、絶世のオブジェのように眠っていた。

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