ゴシック的描写研究 肆回目

・目の前には、臓物を全てひっくり返され、巨大な爪で肌を捲られ、貪られている人間の姿がある。足の部分をつままれ、ぶらんぶらんと、遺体はなさけなく揺さぶられている。人間の強度を完全に無視して、裂かれた腹からは臓物がずり落ちていく。


・鬱蒼と茂る木々たちの身長はみな驚くほど高く、大量にあった。クレヨンで塗り潰されたような濃い緑の道を進む。ざわざわとせめぎたてる草の音と空気は重く、窮屈な道。先程まで少女を見ていた陽光が光を施す隙間など一隙もない。明るさという概念をひっくり返されたような錯覚に陥りながらも、目の前にある、意味ありげな獣道を進んだ。


・携えるようにして持っていた、少し大きめの黒い日傘。透き通った手を隠すように付けられている、レースの派手な黒の手袋。そして何よりも、全身を包む、レースがふんだんに縫われた、漆黒のドレス。フリルの主張も激しく、ドレスの裾から伸びるタイツに包まれた細い足。


・死した花嫁を連想させる、儚くも、惹き込まれてしまうその服装は、少女の持っている長くて綺麗な黒髪と合わせたら、さらに美しさを増していた。

〝死への憧れ〟を意味する時もある、ゴシックの衣装である。


・夜の光が認識できるようになった、丑三つ時の路地裏にて。殺人鬼を思わせる赤髪の少女と、夜の風と光を纏った銀色の少女は、武器を構え、向き合っていた。


・お姫様抱っこを降りたお嬢様は、今のところ純白を保ったままである私のブラウスをつまみ、後ろに隠れるようにして震えている。震えのせいで声は発せないようであるが、きつく握り締められる指の感触と、柔らかな躰の感触は、確かに私を信頼し、求めていた。


・「これが鎖だって?」伯爵は抱腹絶倒の勢いでそう言った。そのまま、壁に繋がれた銀色の鎖と、それに繋がる少女を指さして、「あの姿が翅を失った姿だとおっしゃるのか? ――それは断じて違う。むしろ、私は彼女を愛している。そうでなければ、なにも自分から翅を千切るようなことはしないさ。そう、お前が鎖だというものは、私にとっては薔薇の首輪であるのだよ!」


・劈く絶叫。目線の先には鮮血が滴る。馨しい彼女の肉体は、見るも無残に引き裂かれていた。


・屋敷に通じる道の上で、ピクニックをしている集団がありました。晴れた山で、腐った食べ物を広げ、みんなが楽しそうにお食事をしています。その集団の周りには、たくさんのハエと、動き回るウジ虫、森の動物の死骸がありました。エプロンドレスを着させられた、白骨化した遺体が何体もありました。可愛らしい女の子用の服を着た、幼い女の子たちの遺体が寄せ集められていました。それらの遺体を囲まれるように、男と思われる生首が、焚火によって焼かれていました。

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