ゴシック的描写研究 参回目

・雷鳴が嘶くかのように響き、辺りが怒りで覆われる。夜嵐は人々の幸福も、愛情も、希望も、全てを嘲笑って吹き荒れる。荒唐無稽な茶番は、今宵幕を閉じるのだ。


・天を穿つ勢いで高く伸びた尖閣や、過剰なまでの装飾。左右非対称なオブジェに、形が大きく歪んだ窓。アナーキーなその教会こそ、ゴシック建築そのものである。


・男二人に壁へと押さえつけられた少女は涙を流し、棘の付いた靴を履いたもう一人の男が少女の腹に蹴りを入れると、辺りは彼女の血と悲鳴で埋め尽くされた。


・クレヨンが折れるのではないかと心配するほど、濃く塗りつぶされた緑は、まさに今、彼が彷徨う森の不気味さに酷似していた。


・どこまでも続くように思われる屋敷の長い廊下の、所々にある暗鬱な絵画が、我々の姿をしたためて嗤っている。


・楚々とした仕草でお嬢様が紅茶を啜る。その横顔は彫刻のように完成しきっていて、桜色の唇は、芳醇な紅茶の香りと共に色めいて見える。


・「彼女は怪物だ!」彼が言った。「彼女には悪魔が跳梁している‼ 悪事を唆し、妖艶で淫らな色欲の悪魔が‼ 火炙りだ! 彼女は怪物であり、それ即ち魔女なのだ‼ 殺せ、魔女を殺すのだ‼」


・一本、また一本とナイフが突き刺さる。痛みが体を貫くと同時に、意識は水面に浮かぶ泡沫のように力なく揺蕩い、死の窖へと引き摺りこまれていくような、得体のしれない恐怖が私の生命を蹂躙した。


・「愛らしい物を手に入れたいの。・・・・・・・いいえ、ちがうわ。本当はそうじゃなかったの。本当は、愛らしい物になりたかったの。どんな受難だって苦痛だって虐待だって凌辱だって、無言で受け入れる、とっても可哀想だけれども可憐な物に、私はなりたかったの・・・・・・・」


・コッペはリアが着たこともない豪華なドレスをまとっていて、ゆったりと何層もの桃色のフリルが膨らみ、蕾のように広がった姫袖。他にも、さらさらと宙をかく垂れ下がったブロンズの髪が、金髪のリアにはうらやましいくらいでした。なかでもリアがコッペをうらやましいと思ったのは、その頭に、美しい赤薔薇のヘッドドレスが、ティアラのようについていたことでした。

(こちらの文は、わたしのオリジナル小説『黄変する童話』から引用しました)

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