第10話 一撃

 二条と左沢は再び走り始めた。敵の周りを走りながら、機会を窺う。

「今だ!」

それを合図に間合いを詰め、同時に攻撃する。しかし、墨田は二人の攻撃を素早い身のこなしでそれを躱した。躱されたせいで、二条と左沢は互いを殴り飛ばす形になってしまう。


「いって!」

「チッ」

「てめえ今舌打ちしただろ」

「.......してません」

二人は睨み合う。しかし、墨田から目を離してしまった。


「危ない!」

墨田は二条の背後に回っていた。それに気付いた左沢は二条を突き飛ばす。だが、結果的に左沢が墨田のターゲットになってしまう。


「気付いてますよ」

二条はそう呟くと、飛ばされた姿勢から体を捻り、墨田の足を蹴る。墨田はバランスを崩した。二人はこの隙に墨田に詰め寄った。二条は左から、左沢は右側から拳を振るう。お互いの苛立ちを込めた拳が、渾身の一発となって墨田にぶつかる。


「そういう所が気に食わねえんだよ!」

「勝手にしてください!」


二人の攻撃は、墨田の腹にヒットした。


「おええあえああええあああ!」


墨田はその場に蹲りながら倒れる。そして力尽きたようだ。


「......倒せたみたいですね」

「ああ」


そう言うと、左沢もバタンと倒れた。


「左沢さん!」


左沢は意識を失っているようだ。だが、薬のこともある。このままでは左沢の命が危ない。

―――とりあえず応援を、いや病院か。救急車だ。えっと.....


二条は油断した。倒したと思っていた墨田が、最後の力を振り絞って近づいていた。二条は全く気付いていない。


墨田は拳を振りあげる。

「死ね!」

気付いた時にはもう遅かった。

―――やばい、死ぬ


死を覚悟した。突然過去の出来事が次々に思い出された。



―――走馬灯か。初めて見た。


子供時代の記憶、訓練生時代の記憶、さらには昨日のことまで思い出される。

―――左沢さんのこと、もう少しくらい知りたかったな。


ガツッ!


いつの間にか音楽は消えていた。おかげで鈍い音も聞こえた。






―――俺死んだのか?




いや、これは。


二条は恐る恐る目を開ける。すると、目の前には墨田ではない人物が立っていた。


「大丈夫か?」

その女性は、片手に吸いかけのタバコを持っていた。


「靭さん!」

墨田は既に気を失って、拘束されていた。入り口からは警察らしき人たちが次々にやってくる。


「私の回し蹴り見たか?きれいに決まったろ?」

「すいません、見てませんで.....」


話の途中で、二条は倒れた。安心したせいだろう。とっくに限界を迎えていた体は、もう動きそうになかった。







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