第7話 相棒?

「マジでダメだからね。だって二本飲んだらんだよ?」

「え.....」


事務所内に沈黙が訪れる。


左沢あてらざわが目を丸くした隙に、二条にじょうが口を出す。

「じゃあなんで二本作ったんです?」

白衣の男は二条の方を見たかと思ったが違った。白衣の男は二条の背後にいる人物に目を向ける。


「だってあの人が二本作れって」

白衣の男はうつぼを見ながらそう言った。


「じゃあなんで」

「なんでって、君の分だってよ」

「は?」

そう言うと白衣の男は、二条に瓶を渡した。

二条は訳の分からないまま、受け取ってしまった。


「.....俺は使わないですよ」

二条は薬物が嫌いだ。二条の中では、この瓶に容れられた得体の知れない液体も薬物だと考えていた。


「まあそんなこと言わずに持っとけよ。御守りだと思って」

横から靭がそう言ってきた。新たなタバコに火をつけているところだ。


「今から、きみたち一緒に行動してもらうんだからさ」


―――え?


「君たちっていうのは.....誰のことです?」

二条は恐る恐る聞いた。なんとなく察しはついていたのだが。


「あ?そりゃ二条と左沢に決まってんじゃん」

靭はニヤニヤしながらそう言うと、タバコの煙を吐いた。


「冗談じゃない!」

「冗談言わないでくださいよ」

二条と左沢はそれぞれ反対したが、靭に「部長命令だ」とはね除けられた。


こうして二人は共に行動することになった。が、当然これで仲が良くなるなんてことはなく、いつもの調子で喧嘩していた。


「行き先くらい教えてくれてもいいじゃないですか」

「やだ、バカに教えてもわかんねえだろバーカ」

二条は意地でもキレたりしない。これはキレた方が負けだ。


二人は事務所を出て、とある場所に向かっていた。と言っても行き先を知ってるのは左沢だけだ。因みに移動は左沢の愛車だ。二条は助手席に座っているものの、運転中の左沢には話しかけたりせず、窓の外の景色を眺めていた。

その後も沈黙が続いたり、小さな喧嘩をしているうちに目的地に着く。左沢は車を止めて降りたかと思うと、どこかへ歩き出した。

「待ってください。ってか鍵いいんですか」



しばらく歩くと左沢はとある建物の前で足を止める。


「なんですか、ここ」

二人の目の前には雑居ビルが建ち並ぶ。左沢はその中でも一際ぼろさの目立つビルに入る。階段を上らず、下りる。地下だ。


「あの、教えてもらってもいいですか?」

すると左沢は急に振り返り、「うるさい」と人差し指を口に当てた。

「てめえに話しても失敗するだけだ」

「はいはいそうですか」

二条は適当に受け流す。


階段を降りると、お店の入り口が見える。そして頭が割れそうなほどの音量の音楽が二人を襲った。


「うるさっ」

二条は咄嗟に両手で耳を塞ぐ。左沢はこの爆音などお構いなしにスタスタと店の中に入る。


薄暗い店内はそこそこ広く、人も多く見受けられた。店の中央では、男女がこの爆音に合わせて踊っていた。クラブの類だろう。


「左沢さん、ここで何するんです?」

さすがに何をするかくらい教えてくれないと、これ以降の任務に支障があるだろう。まさかただ踊りに付き合わされるだけか?二条はそんなことを考え始めていた。


「ここ、密売の可能性がある」

「え?」

「二度も言わせるなバカ。そういうことだから怪しいところ探せ」

左沢はここが薬の取引現場だと睨んでいるらしい。確かにこういったお店で取引をしていた事例はある。なぜこの店に目を付けたのだろうかという疑問が残るが、二条はとりあえず怪しいところを探すことにした。


二条はまず、トイレを確認しに行く。トイレはよく取引に使われる。二条は、トイレの貯水タンクの中に薬を隠して取引していた事例を知っていた。


ひとまず男子トイレを片っ端から探してみた。しかし、何もない。手掛かりすら見つからない。左沢の見当違いを疑い始めた矢先、左耳に着けた通信機からあいつの声が聞こえた。


「おまえ、早くこっちに来い!」

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