第6話 秘薬と悪魔

「家宅捜索に入ったあああ?!」

左沢の叫び声が事務所内に響き渡る。

現在、うつぼの指示で特殊麻薬取締部のメンバー全員が事務所に集まっていた。そこで靭の口から告げられたのは、警察の捜査状況に関することだった。


「ああ。左沢あてらざわが目星をつけた男がいただろ?そいつはもう捜査線上に浮上していてだな、家宅捜索が入ったらしい」


左沢が目星をつけた男というのは、荒川日織あらかわひおりと交際していたという男性だ。荒川日織とは、先日発見された首の飛ばされた死体の男―――大森正典おおもりまさのりが起こした車両事故の被害者だ。荒川はその事故で亡くなっていた。大森は飲酒運転をしていたそうだ。なので復讐というれっきとした動機があり、目星をつけられていた。


「警察のほうがデータベースもありますし、しょうがないですね」

二条が落ち着いた声でそう言った。

「なにがしょうがないだ」

そう言って左沢は二条に向かってペットボトルを投げた。


「痛いですよ。しかも中身まだ入ってるじゃないですか」

二条は意地でもキレない。どうせ器が小さいとか言われて馬鹿にされるからだ。


「で、どうなったの?その家宅捜索。物は出てきた?」

白衣の男がキャスター付きの椅子にふんぞり返りながら言った。


「ああ、出てきた。物がな。だから逮捕だ」

靭が淡々と事実を伝える。


「嘘だ――――――――――――――!」

左沢はそのまま床に倒れた。


「ただ...」

靭はまだ話している途中だったようだ。この場の全員が靭の発言に注目する。

「発見されたのは覚せい剤。通常の覚せい剤で、‘‘赤りんご‘‘ではなかった。本人も殺人に関しては容疑を否認してる」


その言葉を聞き、ほっとしたのか、いつの間にか左沢はいつもの調子に戻っていた。

「警察は今、血ナマコになって首のちぎり方を探してるんだろうな、ははははは」

「それを言うなら血眼ちまなこですよ」

二条が半分馬鹿にしながら、冷静にツッコミを入れた。ツッコミというよりは揚げ足取りだ。

「うるせぇ!死ね!!!!」

そう言うと左沢は急に立ち上がる。


「影沼!」

「はっ、はい!」

「さっき指示したやつ終わったか?」

「もちろん!終わりましたとも!」

左沢は影沼のパソコンをのぞき込む。パソコンのモニターにはどこかの地図が映し出されている。


「位置情報の解析の結果ですね、ここが有力です」

影沼が地図の一ヶ所を指差す。

「よし、調べてくる」

そう言うと、左沢は荷物を取ってどこかに出掛けようとした。


「あ、待って」

すると、白衣の男が左沢を呼び止める。


「これ持っていってよ」

そう言うと手のひらサイズの瓶を二本取り出した。エナジードリンクの類いに見える。中には液体が入っている。


「なに、これ」

左沢は一つを手に取ると、不思議そうに瓶を眺めた。

「これは僕の自信作でね.....」

「先生の自信作って心配だなぁ」

「人の話は最後まで聞いてよ。でね、それは所謂いわゆる秘薬ってやつさ」

「.....うぉぉぉぉお!」

秘薬という言葉を聞き、妙にテンションが上がる左沢を他所に、二条は怪訝そうな顔で二人を見ていた。


「その名の通り製造法は秘密ね。でね、これを飲むとゲームの回復アイテムみたいに体力が回復しちゃうんだよ?すごくない?エナドリとは比べ物にならないよ」

白衣の男はニヤニヤしながら楽しそうに話した。


「すご!絶対使う!」

そう言うと左沢は瓶をポケットにしまった。

「あれ?もう一本も頂戴よ」

左沢がもう一つの瓶に手をのばす。が、白衣の男にそれを阻まれた。


「ダメ!これは後々の体への負荷が尋常じゃないから、一日一本まで!」

「大丈夫大丈夫!俺強いから」

左沢が瓶を奪おうとすると、白衣の男は真剣な顔になったので、左沢は奪うのを止めた。


「マジでダメだからね。だって二本飲んだらんだよ?」








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