第5話 墓参り

時は戻り、左沢あてらざわが事務所を出た数秒後。二条にじょうは自分のやれることを考えていた。


左沢は人の死を軽く見ている。奴は殺人事件の捜査をゲームか何かと勘違いしているのではないか。二条はそう考えていた。ならばせめて自分のやれることは....


「あの、影沼かげぬまさん」

「あ、はい!どうしました?顔怖いですよ」

「あーいや、これはもともとで...まあそれはそれで、調べてほしいことがあるんですけど」

「なんです?」

影沼はパソコンに向かい直しながらも、二条の話を聞く。


「大森って男、事故起こしたんですよね?その被害者のお墓の場所とかって調べられます?」

影沼は視線をパソコンのモニターから二条のほうへと移す。


「なんでお墓なんです?まあいいですけど」

そう言うと、再びパソコンに向かった。マウスを動かしクリックしたかと思うと、見たこともないほどの速さでキーボードを打ち始める。二条がその迫力に圧倒されている内に、調べ終わったようだ。「わかりましたよ」と言って、モニターを見せてくれた。そこには墓地の場所が記されていた。


「亡くなった方のお名前などはメールで送りますね」

そう言うと、再びパソコンで作業を始めたようだ。

「影沼さんってすごいですね」

二条はいつもの抑揚のない声で言った。ただ、感心しているのは本当だ。

「あはは、私って天才ですよね、知ってます。なんつって」

「ありがとうございます」

「ついでにこの情報、左沢さんにも送って褒められちゃおーっと」

そう言う影沼の表情は生き生きとしていた。


     

      ♢  ♢


二条は、被害者である荒川日織あらかわひおりのお墓に花を手向け、手を合わせる。

同僚を亡くした二条の、死に対する考え方は揺らいでいた。二条本人もなんで墓参りしようと思ったのか、明確には分からなかった。ただ、彼女の死はだれも予測しえなかっただろう。もちろん彼女本人も。あまりにも可哀そうすぎた。だからせめてこうやって手を合わせたかったのかもしれない。


二条が帰ろうとしたその時、向こうから誰かがやってきた。左沢だ。

「なんでいるんだよ」と言ってやろうかと思ったが、話しかけるのもめんどくさいので、二条は左沢に気付かれぬように身を潜めた。



そして場面は左沢と墨田が別れ、電話をかけているところ。二条は、左沢が気を使いながら話していたことを思い出し、悪い奴ではなさそうだなと思っていた。


「帰るか」

二条は自分にしか聞こえないくらいの声でそうつぶやいた。が、


「なんでてめえがいるんだよ」

ドキッ!!!


いつの間にか、二条の目の前に左沢が立っていた。

「それを言うなら、左沢さんもなんでいるんですか」

返す言葉がこれしか思いつかなかった。


「なんでもいいだろバーカ」

「.....なんかわかったんですか?」

左沢は頭を掻きむしりながら「別に」と答えた。隠しているつもりなのだろうが、何かしらには気が付いているようだ。


二人に沈黙が訪れる。が、その沈黙はすぐに破られる。

二人の携帯の着信音が、ほぼ同時に鳴った。


「もしもし?」

「なんだ」


二人がほぼ同時に話始める。お互いに、あっち行けとでも言わんばかりに睨みあった。


「はい。すぐ戻ります」

「なんでだよ...またあのハゲかぁぁぁぁぁくそぉぉぉぉ」


二人とも電話を切ったかと思うと、急いで墓地を後にした。







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