誕生

仮死状態だった。

仮死状態で取り上げられ、死んだと思われていたそうだ。

その日、母は、お産に備えて、火鉢を片付けようと持ち上げたところ、

破水。

慌てて病院へ向かった。

町に初めての総合病院が出来たばかり。

まだ、産婦人科の医師は、赴任してきていなかった。

病院についた頃には、羊水のほとんどが流れてしまった。

しかし、陣痛はない。

今のような陣痛誘発剤もなく、帝王切開の技術もない時代。

内科医と外科医と助産師しかいない。

羊水がない中で、胎児はそんなに耐えられないと、

強制的に産ませることになった。

助産師さんが、胎児を下へと進めるが、

途中から下がってこない。

へその緒が巻き付いているのだ。

外科医が、意を決して、手にワセリンを塗って、

膣内に手を入れ、胎児を回転させる。

2周半、巻き付いていた。

後に母曰く、

失神しそうなくらい痛かったそうだ。

取り出された胎児は、うんともすんとも言わない。

医師は、逆さまにして足を持った。

動かしてみるが、目も開けないし、声も出さない。

「ダメか」

誰もがそう思ったが、一か八か、

胎児の背中を叩いた。

すると、

「フギャ」

弱い声が聞こえた。

「生きてるぞ。」

医師の声が大きい。

もう一度叩く。

赤ん坊は、口から水を吐いて、

「フギャ―」

と大きな声で泣いた。

分娩室にいた全ての人々が、

「やったー」

と歓声を上げた。

そう母から聞かされた。

私の命は、こうして救われたのだ。

多くの人の手を借りて、この命は救われ、人生を与えられたのだ。

それには、この私を生かすことによって、

何かの使命を負ったのではないかと思っている。

そして、それが何かを探す旅こそが人生なのだと思う。

複雑で過酷な人生が始まったのだ。

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