はたらき者の女の子

 昔むかし、はたらき者で信心深い女の子がおりました。上にお兄さんが四人いて、これらは皆朝早くから夜が深まるまで毎日懸命に外へ稼ぎに出ておりました。女の子の役目は掃除に洗濯、水汲み、お料理。とにかく立派に働くお兄さんたちに気持ち良く生活してもらうために出来ることを懸命にこなしました。その健気な末娘にお兄さんたちは皆毎日のように感謝の言葉を述べ、女の子はその言葉を聞くたびに少し気恥ずかしい思いをしたのでした。しかし幸せな生活がいつまでも続くとは限らないのが人生の厳しい性質たちというものです。女の子の四人のお兄さんは、若くして皆亡くなってしまいました。


 いちばん上のお兄さんは、桜のいちばん恋染まる日に。

 にばん目のお兄さんは、空のいちばん青抜ける日に。

 さんばん目のお兄さんは、みどり葉のいちばん紅とける日に。

 よんばん目のお兄さんは、道々のいちばん白包まれる日に。


 女の子は叔父に引き取られ、裕福ではないまでも食べるのには困らないほどの生活を送ることになりましたが、お兄さんを失った悲しみを推し量ることなどできません。女の子はいじらしくも毎年のように、お兄さんの命日になるとお墓へ花を供えに向かうのでした。


 桜のいちばん恋染まる日に、いちばん上のお兄さんへ。

 空のいちばん青抜ける日に、にばん目のお兄さんへ。

 みどり葉のいちばんあかとける日に、さんばん目のお兄さんへ。

 道々のいちばん白包まれる日に、よんばん目のお兄さんへ。


 お花を供えて祈った後は動くことも出来ず、枯れるほど涙を流しながらお兄さんたちのお墓の前で一日中悲しみにくれておりました。

 あまりにも長い年月の間女の子がそのように過ごしているのを神さまがご覧になると、神さまは女の子のことを大層かわいそうにおぼしめしました。どうにかしてこの憐れな女の子の悲しみを和らげることはできないかとお考えになり、次の年からいちばん季節の深まる日をなくしてしまったのです。


 桜はいつの間にか散りました。

 空の青さはいつの間にか和らぎました。

 みどり葉はいつの間にか枯れ葉となりました。

 道々はいつの間にか白の中に黒い土の色を見せるようになりました。


 それから、お兄さんたちの亡くなったときのことをくわしく思いだして女の子が涙を枯らすことはなくなりました。だんだんと元気を取り戻し、目を見張るほど美しく育った女の子は名家の長男の下へ嫁ぐこととなりました。


 神さまは幸せな女の子の姿を見て満足なさり、それからというもの、季節はいつの間にやら移り変わっていくものになったのです。

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