19 中等部テニス部優勝

「あれ? 瀬戸がシングルス1じゃん」


 次の試合も、私は若竹くんと観戦していた。深見くんがシングルス2で、要くんがダブルスで試合していた。


「何、あいつ怪我とかしてたんじゃねえの? って、すげえトップスピンサーブだな。あんなの打ち返したら、手首がどうにかなっちゃうよ」


 征士くんは調子を取り戻していた。というかこんな好調ぶりは見たことがない。強いと噂の相手が、1ゲームはおろか、1ポイントさえ取れていない。若竹くんも目を丸くしている。


「おい、虹川。お前何話してきたんだよ。どうやったら、あの絶不調から絶好調になれるんだ?」


 私は曖昧に笑ってみた。


「さあ……。気分の問題? みたいな?」

「何だ、それ?」


 瞬く間に征士くんは6─0で勝ってしまった。

 深見くんと要くんも有利に試合を進めている。このままでいけば、また美苑が勝てそうだ。

 やがてシングルスもダブルスも全て美苑が勝ち、次の試合へ駒を進めた。


「瀬戸くんもすごいけど、要くんも強いわね」

「そりゃあ、俺の弟だからな。みっちり扱いてるさ」


 要くんが勝てて、若竹くんは嬉しそうだ。確かに要くんも上手だった。

 若竹くんと移動しながら、次々試合を観戦する。征士くんも、深見くんも、要くんも大活躍で、美苑大付属中等部は優勝した。


「うおお~! 三年連続優勝!」

「俺達、すげえ!」

「いや、やっぱすげえのは部長と副部長だろ~」


 歓喜に沸く中、若竹くんは部員の輪の中に入っていった。少し躊躇しながら、私も後に続く。


「要! よくやったな!」

「兄ちゃん! 応援ありがとう」


 要くんが顔を紅潮させて、若竹くんと喜びを分かち合っていた。

 征士くんは探すまでもなく、輪の一番中心にいた。勇気を出して声をかける。


「優勝、おめでとう!」


 征士くんは私を見て破顔した。


「ありがとうございます! 三年越しで直接おめでとうって言ってもらえました」

「そんな、大したことじゃないわよー」

「いえ、僕にとったら、とても大切なことです!」


 今度お祝いしましょうね、と言って私達は別れた。

 これから学校で祝勝会をするのだという。

 深見くんも挨拶に来た。


「『月乃さん』のおかげです!」


 と言われてしまった。深見くんには全て見通されているようで恥ずかしい。

 何はともあれ、優勝おめでとう、ともう一度心の中で叫んだ。


 ♦ ♦ ♦


 夏といえば、我がテニスサークルでも合宿がある。

 合宿といっても、ほんの二泊三日。テニスの練習もするが、温泉に入ったり、美味しい料理をいただいたり、夜になると誰かの部屋で飲んだり。花火や肝試しもする。お遊び感覚の合宿だ。ちなみに去年は未成年だったので、一年生は飲み会を遠慮していた。

 そんなお遊び合宿でも、合宿をまとめる合宿係は必要だ。部長と綿密に場所や予定を相談する。弥生さんが張り切って、合宿係に玲子ちゃんを推薦していた。


「ええー。弥生さんも月乃ちゃんも、一緒にやりましょうよ」


 可愛くお願いされると私も弥生さんも弱い。三人で合宿係をすることになった。



「じゃあ、いつものテニスコート付きの旅館は予約してあるから。観光バスも手配しているし。千葉は例年通り、練習の予定を立ててくれ」

「はーい」


 部長の石田さんと合宿係の三人で、大学内のカフェで合宿について話し合っていた。


「神田は花火の調達と場所確認。去年もやったから場所はわかるだろう。花火の分量は資料を確認してくれ」

「わかりました」

「石田ー。可愛い後輩は、名前呼びしなくちゃいけないんだぞ」


 弥生さんのからかうような声音に、石田さんはぴくりと反応した。


「そういうものなのか?」

「親睦を深める為にも、そういうものなんですう~」


 石田さんは真面目にそうか、と頷いた。


「じゃあ、玲子。頼んだ」


 私と弥生さんは飲んでいたコーヒーを噴きそうになった。


「いきなりの呼び捨て!」

「石田さん、斬新でナイスです!」

「うん? 名前呼びするんだろう?」


 玲子ちゃんは真っ赤になって俯いている。可愛い。


「では、月乃は……」

「石田、月乃ちゃんは、名前呼びの先約が入っているから虹川でー」

「何だ? 難しいな……。じゃあ虹川は……」


 私は肝試しの準備をすることになった。石田さん、面白い。

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