第24話
芝浦が先に総理執務室に入った。
「失礼します」
「どうぞ」
「まいさんをお連れしました」
「ありがとう」
まいは、総理執務室に足を踏み入れた。執務室内には、木製の頑丈な机、数人が座れる応接用の椅子とテーブル、書類が入っている棚、日本の国旗があった。広いという印象は受けなかった。この総理執務室は、第26代田中義一総理から歴代の総理に使われてきているのだから、歴史が深い。1927年に内閣総理大臣になったのだから、173年も月日が経っている。改築工事はしたから、全く一緒というわけではないが、この場所であることには間違いない。
「まいちゃん、来てくれてありがとう。芝浦は、一見近寄りがたい雰囲気があるが、根は優しいから、分からないことは何でも聞くがいいよ。それで、来たばかりで申し訳ないんだが、これから私は閣僚会議があるんだ。だから、少しの間、この部屋を留守にするから、隣の秘書室にいてくれないか? 一応、お茶や珈琲はあるし、美味しいケーキも用意しておいた」
「分かりました。では、ケーキ、ご馳走になります」
「ありがとう、では行ってくる」
そう言って、トップと芝浦は部屋から出て行った。流石に総理執務室は鍵を掛けられたが、秘書室は好きなように使える。つるんとしたシロップがかかった苺のショートケーキをささっと食べて、お茶を飲んだ。早速、秘書室の資料をあさった。秘書室には、天井まで届くくらいの高い棚がいくつもあって、本や書類がびっしりあった。トップも芝浦も、クラブ嬢がまさか、書類をあさるなんて、思いもよらないだろう。湊は、視力が2ある目を酷使して、棚の資料に目をやった。
「計画C」
と書かれた資料を見つけた。資料を開けると、「第三次世界大戦」の文字も見える。ビンゴだ。その資料にはこのようなことが書いてあった。
「今や、自衛隊しかいない日本を『セランロ』が狙っている。セランロは、ミサイルを使って日本を攻撃するつもりだ。ただのミサイルではなく、核兵器だ。それを使われれば、日本は、1945年の広島や長崎のようになってしまう。私たちは、それを阻止すべく核兵器を開発し、作っている。抑止力にするためだ。しかし、近年、火星に移住できることが分かり、その必要は無くなった。我々、高級官僚と選ばれた者たちだけは、火星に避難することができる。核兵器ミサイルは、日本の至る所に設置され、後は、総理の合図を待つだけとなった。核兵器を作れば、国の軍事組織が儲かり、その金は私たちのもとで届く。核兵器を作れるだけ作り、金を儲けるだけ儲け、後は火星で豪華な暮らしをする」
セランロは、新しくできた連合国で、アジアの一部だ。セランロは、近年、ミサイルの発射実験を多く行なっている。もしかしたら、もう止められない段階なのかもしれない。ダチュラは、すぐに勇也にそれを知らせた。
そして、その案を出した人物の名前が載っていた。
起案者:朝日 剛
朝日の父がやはり起案者だった。朝日剛は、入院中である今、誰が手を打っているのだろう。息子である朝日俊は湊たちの味方になった。だから、裏で手を回してはいない。では一体誰が……
この資料の最後のベージに合意するサインがあった。トップ、副首相、朝日剛、そして……桜井成宮の名前があった。この桜井という男は、火星移住に向けて一番肝となる素材、シリカエアロゲルを提供する会社の社長であった。
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