第15話
次の日。「火星移住計画」の報道があった。国民は、歓声を上げ、拍手喝采が起こった。日本が先駆けて火星に移住する計画を立てたことは国民にとって誇らしい気持ちになるのだった。
テレビでは、「火星移住計画」についての話で持ちきりだった。どの局でも特集が組まれ、放送されていた。
「火星とはどのような星なのでしょう?」
「火星は、地球のひとつ外側を公転する惑星です。太陽からは、約2億2800万キロメートル離れているんですね。その軌道を687日かけて一周しているんです。ちなみに自転周期は、地球の自転周期より少しだけ長めの24時間37分なんです」
国立天文台の小田が説明を続ける。
「火星は地球と同じく岩石でできた惑星です。直径は地球の半分ほどで、二酸化炭素を主成分とするごく薄い大気に覆われています。なんと、火星の大気圧は地球の1000分の6なんです。
火星は全体的に赤っぽく見えますが、これは、表面の岩石や砂が酸化鉄(赤さび)を多く含んでいるためです。また、岩石の成分の違いや地形の影響により、ところどころに黒っぽい模様もようがあります。火星表面でときおり発生するダストストーム(砂嵐)などによって、模様は薄くなったり見えなくなったりすることがあります。
そして、火星の北極と南極には、水の氷や二酸化炭素の氷ドライアイスなどでできた『極冠きょくかん』と呼ばれる白い部分があります。火星の自転軸は25度ほど傾いているため、火星には地球に似た季節変化があります。極冠は、季節による温度変化によって蒸発したり凍ったりするため、大きくなったり小さくなったりします」
国立天文台の職員は、火星のパネルを示しながら説明した。キャスターは、質問した。
「そんな惑星に人間が住めるのでしょうか?」
「それが、今回の研究で住めることが分かったのです。『シリカエアロゲル』という素材で火星を覆うのです」
「『シリカエアロゲル』って、1999年に打ち上げられたNASAの宇宙探査機『スターダスト』が宇宙塵を収集するために使った素材じゃないですか!」
「その通りです」
「この『シリカエアロゲル』をどうやって使うんですか?」
「火星の表面を『シリカエアロゲル』の薄い層を用いて覆うことで、液体の水を通年で維持し、有害な紫外線放射から保護できます。この方法により、広範な惑星規模の改変を行わなくても、光合成生物が火星上で発生できるようになることが今回の研究で分かったんです。
火星表面の状況は、地球の生命に適していません。火星表面は、非常に低温のため液体の水を維持できず、UV放射から保護するためのオゾン層も存在しません。
2019年、ワーズワースは、『Nature Astronomy』で、人類の火星移住を実現しうる素材として、『シリカエアロゲル』に着目しました。2019年から今日まで多くの研究者が実験をし、それが現実にできることが分かったのです!
『シリカエアロゲル』は、可視光や赤外線光の光子が十分に効率よく通過します。そして、人類に有害な紫外線放射は、外側で跳ね返すことができるのです」
キャスターは、小田の話に聞き入っていた。いや、キャスターだけじゃない。国民、そして、世界中の人々が注目していた。
後書き
参考引用文献
・火星とは 国立天文台(NA OJ)https://www.nao.ac.jp/astro/basic/mars.html
・Wordsworth, R., Kerber, L. & Cockell, C. Enabling Martian habitability with silica aerogel via the solid-state greenhouse effect. Nat Astron 3, 898–903 (2019). https://doi.org/10.1038/s41550-019-0813-0
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