「あなた絶対至上主義」と言った学園のアイドルは俺色に染められたい

しゆの

第1話

二宮康介にのみやこうすけくん、私はあなた絶対至上主義になります」


 高校に入学して二度目の春、桜がだいぶ散った四月の半ば、何故か放課後に校舎の屋上に呼び出された俺は、同じクラスの学校一の美少女と言われる渋谷しぶやメアに衝撃的な告白をされた。


 春風が吹いて彼女の肩ほどまである綺麗な桃色の髪が揺れ、長いまつ毛に縁取れた宝石みたいな美しいアメジスト色の大きな瞳はしっかりとこちらを見ている。


 第二ボタンまで開けられたブラウスの隙間から見える肌、短いチェックのスカートから出ている足はとても白く、男の視線を釘付けにしてもおかしくないだろう。


 実際に渋谷に魅入られる男子は多いらしく、相当な数の告白をされているようだ。


 ただ、どんなイケメンからの告白も断るとのことで、今のところは誰とも付き合う気がないと思っていた。


 でも、どうやら違うらしく、告白してきたことから渋谷は俺のことが好きなようだ。


 そうでないと絶対至上主義になるなどと言わないだろう。


「絶対至上主義? 何でまた?」


 好きなら付き合ってください、と告白すればいいだけなので、俺は目をパチクリさせて渋谷に理由尋ねる。


 そもそも普段に渋谷はブラウスのボタンはきっちり閉めているし、スカートだってもっと長かったはずだ。


 だけど放課後になってからの渋谷は、大きな胸と細くて白い足を見せつけているかのように露出が高い。


 誘惑して惚れさせようという魂胆だろうか?


「好き、だから」


 頬を赤らめて前屈みになったことで、ブラウスの隙間から渋谷の大きな谷間が強調されてピンクの布がチラッと見えた。


 本当なら視線を反らした方がいいのだろうが、男の本能が邪魔をして渋谷を見てしまう。


 これくらいならスマホで検索すればすぐに見れるはずなのに、生で見ると画面越しで見るのとでは全然違った。


「好きなのは分かったけど、どこが好きなんだ?」


 視線は釘付けになりつつも、俺は渋谷に尋ねる。


 俺はこれといったイケメンっていうわけではなく、どちらかと言うと陰キャだしアニメ大好きなオタクだ。


 だからって不細工でもないし、どんなに甘く見ても中の上といったところだろう。


 そんな俺に学園のアイドルと言われる渋谷メアに告白されたので、何で好きなのかを聞くのは当然と言える。


「二宮くんは小学校での私を覚えてる?」

「ああ。海外から転校してきたんだよな」


 小学四年生の時に渋谷はノルウェーから日本に来たのはいいが、彼女はほとんど日本語が喋れなかった。


 そのために中々クラスに馴染むことが出来ず、渋谷はずっと一人だったのだ。


 母親は日本人みたいだが父親がノルウェー人でノルウェーに住んでいたからか、日本に来るまで家であっても日本語で話す機会がなかったらしい。


 今は相当努力したからか、ほぼネイティブな日本語になっている。


「ほとんど日本語が喋れない私のためにノルウェー語を覚えてくれたよね?」

「そんなに話すことは出来ないけど」


 当時の俺は一人でいる渋谷が可哀想だと思ったようで、買ってもらったスマホで検索をしてノルウェー語を多少であるが独学で覚えた。


 スマホではおんせいで発音も教えてくれるため、ある程度覚えることが出来たのだ。


 あくまで少しだから日用会話が多少出来るだけであって、今からノルウェー語で話そうって言われても無理かのしれない。


 それに五年生から高校一年生までは別のクラスだったため、ノルウェー語で話す機会もなくなった。


 多少英語に似ている発音もあるが、違う部分も多いから恐らく聞き取れないだろう。


 だからここまで日本語が上手くなった渋谷に尊敬したことはある。


 きっと日本語を覚えるために血が滲むような努力をしたに違いない。


「でも、私のために頑張ってくれたよね? 学校ではずっと一人だった私とまともに話してくれたのは二宮くんだけ……本当に嬉しかったの」


 先ほどまでの誘惑するような前屈みではなくなり、渋谷は瞼を閉じて俺と一緒のクラスだった小学生の頃を思い出しているかのようだ。


 確かにあの時まともに話していたのは俺だけだし、好きになってしまってもおかしくはないだろう。


「そうか。それで普段はブラウスのボタンを開けてないし、スカートの丈は長くしているはずなのに、今は何でこんなに短いんだ?」


 ブラウスのボタンはともかくスカートはかなり短いため、後ろ向きで少し屈まれれば確実に中が見える。


「お母さんが男は誘惑すればすぐに堕ちるって言ってた、から……」


 セクシーなのは母親から伝授されて実行したらしい。


 きっと渋谷からノルウェー語を勉強して話してくれる男子がいると聞いて、好きなら堕としきなさい、とでも言ったのだろう。


 ただ、あまりこういったのには慣れていないらしく、先ほどから渋谷は髪の隙間から見える耳まで赤い。


 好きな人を誘惑するのは方法として悪くないかもしれないが、恥ずかしいなら別の方法を取るべきだ。


 でも、やはり胸元を見てしまうため、効果があるのは実感しただろう。


「好きなら何でもっと早く告白しなかったの?」

「その……日本語をきちんと覚えて可愛くなりたいって思ったの。今では学園のアイドルって言われるくらいになったから、告白しても大丈夫かなって。二宮くんが私の初恋」

「そうか。惚れられてるとは思ってもいなかったよ」


 確かに女の子の方が初恋は早いって言うし、小学中学年に好きな人が出来てもおかしくないかもしれない。


 さらには日本に来てしばらくは同学年でまともに話していたのは俺だけなので、渋谷が俺を好きなのは自然と言えるだろう。


 小学生の時も充分に美少女だったが、高校生になった今はさらに磨きがかかっている。


「いいよ。付き合おうか。今思えば俺は渋谷に一目惚れしていたのかもしれない」


 あの時は恋愛感情というのを理解出来なかったが、好きだったからこそノルウェー語を覚えて渋谷と話したのかもしれない。


 好きではなかったらいちいち外国語を覚えて話そうとしなかっただろう。


「本当に?」

「もちろん。俺は……Jeg elsker deg」

「何でノルウェー語で言うの?」

「日本語だと恥ずい」


 ノルウェー語で『愛している』と言ってみたが、もちろん母国語だから渋谷には理解出来ている。


 その証拠に「あう……」と照れてしまっているのだから。


 もう何年もノルウェー語なんて使っていないから喋れると思っていなかったが、意外と大丈夫なようだ。

 ネイティブにはほど遠いかもしれないが。


「じゃあ私も……Jeg vil kysse med deg……んん……」


 頬を赤らめて耳元で優しくキスしてほしい、とねだってきたため、俺は渋谷に近づいて唇と唇を触れ合うキスをした。


 柔らかくて熱く、甘い匂いが脳を刺激してくる。


「Do absolutt høyeste prinsipp、こーくん」

「ごめん、今のは分からん」


 ほとんど独学のため、今の言葉は理解出来なかった。


「あなた絶対至上主義だよ、こーくんって言ったの」

「こーくん?」

「うん。康介くんだからこーくん。私のことはメアって呼んでね」

「メア」


 試しに名前で読んでみたら、メアの頬が再び赤く染まっていく。


「Farge i fargen din……私をこーくん色に染めて?」


 ノルウェー語で言ってくるのは、もっと覚えてほしいということなのかもしれない。


 小学生の時はほぼ独学だったが、これからはメアに教えてもらえばいいだろう。

 分かった、と頷いた俺は、再びメアにキスをした。

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