第13話 守ってあげたい-13
しばらくは雨が続いて、新聞部の活動はもっぱらデスクワークとなった。特に、写真集の予算案の作成。何度も電卓を叩いていた坪井が、あきらめて言った。
「部長、無理ですよ、これ。どう考えても、できない」
「わかってる」中川
イスにふんぞりかえったまま、中川は微動だにせず答えた。
「あきらめて、生写真セットということにしましょうよ。初めの予定通り」坪井
「そう、中川、あきらめろ。こだわりすぎなんだよ。本にしようと思ったらどれだけ金がかかると思う?」新田
「わかってる」中川
「俺たちが稼いだ金を全部つぎ込んだって、無理だぜ。写真集なんて。できたとしてもだよ、大赤字なんてことになったら、どうするんだ?お前、当分何にも食えねえぜ」新田
「わかってるって」中川
「由起子先生に相談したんですか?」坪井
「したよ」中川
「どうでした?」坪井
「このままじゃあ、無理だって。やっぱり、スポンサーがいるって」中川
「由起子先生にスポンサーになってもらえば、いいじゃないか」新田
「バーカ!できるわけねえだろ。由起子先生は、学校に相談してみるって言ってたよ」中川
「でも、学校がスター写真集にお金出してくれるかな?」坪井
「バカなこというなよ。そうなりゃ当然、お堅い本になっちまう」中川
「それでもいいじゃねえか。俺たちがプロモーションすることになるんだろ。すげえじゃないの」新田
「バーカ。そんなもんで、満足するのか、お前」中川
「んなこと言ったってよ。お前に何かできるのかよ!」新田
「できねえから、こうやって待ってるんだよ。雨だしな……、どっこも行けねえ」中川
「待ってるって、昨日もふんぞりかえってたじゃねえか」新田
「そうだ。待ってるんだよ」中川
「一昨日も」新田
「だから、待ってるんだよ!」中川
中川はついにふてくされてイスの後ろへ首を垂れた。
「ところで、みゆきちゃんは、どうしてるの?昨日も来なかったけど」新田
「用事があるって、帰ってった」中川
「それで、元気がないんじゃないのか、お前」新田
「どういう意味だよ」中川
「そういう意味だよ」新田
一瞬険悪な雰囲気の中、扉が開いて、由起子先生が入ってきた。
「あら、どうしたの?」由起子
「いや、別に」中川
「先生、何かいい話でもありました?」坪井
「そう、中川君、喜んで。スポンサーがついたわよ」由起子
「本当ですかぁ。おーし」中川
「誰なんです?」新田
「ミキちゃんが出してくれるって」由起子
「ミキって誰?」中川
「知らない?中川君でも知らないの?二年F組の立花美生。彼女が出してもいいって」由起子
「立花って、純子ちゃんのお姉さん?」中川
「んん、わたし、一人っ子」立花
「じゃあ、別…人か。あれっ、別人っていうのか?」新田
「でも、そいつ中学生だろ。どれだけ金がかかるかわかってるのか?」中川
「もちろん。ちゃんと説明したわ」由起子
「だけど、たった100部作るとしても、写真集は目茶苦茶高いんだぜ」新田
「彼女は金持ちなの」由起子
「お嬢様ってことか」新田
「違うわよ、新田君。彼女が金持ちなの。中川君、金儲けが得意なのは君だけじゃないのよ」由起子
「どういうことだよ」中川
「まぁ、いいじゃない。ただし、契約は厳しいわよ。覚悟しておきなさいよ」由起子
「でも、俺たちにも儲けはあるんだろう?」中川
「それは、交渉次第ね。それでいい?」由起子
「それでいいって言われても、どうしようもないよ。とりあえず、話をしに行こうか」中川
「いいわ、じゃあ、あたしが案内してあげるから、いらっしゃい」由起子
「じゃあ、行きますか」中川
「俺も」新田
「あたしも」坪井
立ち上がった新田と坪井を制して中川が言った。
「ダメダメ。何者かわからないのに。とりあえず俺が一人で行ってくる」中川
「その方がいいわ。何人もぞろぞろ来ると、嫌われるわよ。根性なしってね」由起子
「本当に何者だ、その女」中川
「ただ者ではない、ってこと。交渉次第では、儲けが丸ごと取られるかもよ」由起子
「……ーん。たまんねえな」中川
由起子先生に促されながら、中川は部屋を出た。
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