第12話 守ってあげたい-12

 山と積まれたアンケートの紙を前に、新聞部五人は苦慮していた。

「思ったより、集まりましたねぇ」坪井

「これすごいよ。OBのリクエストまで入ってる」新田

「結構、卒業生の人たちから、リクエストが来てるんですよ。どうします?」坪井

「どうって言ったって、なぁ。本格的な本にしなきゃならないのか……。まいったな」中川

「でも、ここ一二年の卒業生の人が多いみたいですよ。特に、女子ばっかり」坪井

「やっぱり、直樹さん目当て?」新田

「もちろん」坪井

「どうしたもんでしょう」新田

「ま、考えても仕方ないし、とりあえず集計して、それから」中川

「それから?」新田

「それから?」坪井

「場合によったら、スポンサーを探すしかないな」中川

「はぁあぁ、面倒なことになっちっまったなぁ。おい、中川。本当にそんなことできるのか?」新田

「そのときになってから考えるさ。由起子先生にでも相談してみるか…」中川

しぶしぶ紙を整理し始めた時、扉が開いた。中川の同級生でサッカー部の大河内が入ってきた。

「明智さんいる?」大河内

「ほーい、いますよ、ここに。なんだ、生徒会長さんじゃないの、どうしたの?みゆきちゃんに何の御用?」中川

「あ、中川もいたの。いまランニングの途中で、ヤンキー風の男に声掛けられたんだ。それで……」大河内


 サッカー部の練習で、ランニングのために城仙公園へ向かう途中で、茶髪の男に出会った。うさんくさそうな目つきで立っている男を避けるように目を伏せ横を通り抜けようとした時、その男は大声で最後尾の坂井を呼び止めた。

「あのさ、あんたら、緑ヶ丘だろう?」

「そうだけど、なんか用か?」

「二年の明智美雪って知ってる?」

「二年?おい、二年に明智って子いたか?」

その時、大河内は答えた。

「この間、転校して来た子ですよ」大河内

「お前、同じクラスか?」

「そうだけど……」大河内

「じゃあ、伝言頼むよ。椎名さんが、怒ってるって、そう言っておいてよ」


 「それだけか?」中川がそう訊き返した。明智は、横を向いたままじっと立っていた。

「そう、それだけ。それで、わかるはずだからって」大河内

「それだけで……」中川

中川は明智に問い掛けようとしてやめた。逆光の明智の姿がかすかに震えているように見えたからだった。

「みゆきちゃんは、知ってるの?そのシイナってヤツ」新田

新田が無遠慮に問い掛けるのに合わせて、明智は振り返った。

「…ん。前の学校の、同級生…」明智

「何を怒ってるんだ?」新田

「…さぁ……。何か、借りたままだったかもしれないな」明智

「じゃあ、メールでもしてみなよ」新田

「…う、うん。そうするわ…今日帰ったら」明智

「じゃあ、それでOKってことで。ありがとうよ、練習中にわざわざ。頑張れよ、会長さん」新田

「いまはただのサッカー部員だよ」大河内

「そうだったそうだった。目指せワールドカップなんてね」新田

呆れた顔で大河内は新田を見た。

「もう、行くよ。じゃあ」大河内

 新田は愛想よく手を振って、振り返った。振り返って妙な緊張感に、圧倒されてしまった。

「どうしたんだ、みんな」新田

「んん、何にも」坪井

 坪井が大きく答えた。それは、坪井は明智が青ざめているのに気づいて、わざと大げさに振る舞ったのだった。立花は坪井の声に触発されたように、アンケートの整理を始めた。中川もそれを手伝い出した。手伝いながら盗み見た明智の表情は、明らかに硬直していた。


         * * * 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る