第11話 守ってあげたい-11

 放課後の部室には、新田と坪井だけがいた。イスにふんぞりかえった姿勢で座っている新田は、返してもらった成績表を振り回しながら呟いた。

「何なんだ。天才ってのは、いるもんなんだね」新田

坪井は、出納帳を書きながら、答えるでもなく言った。

「頭のいい人っていいな」坪井

「お前何位だった?」新田

「訊かないでよ。あたしなんて、下から数えた方が早いのに」坪井

「俺なんて、ワースト二十にも入りそうだよ…。何なんだ、この差は?」新田

「…はぁ、いいな」坪井

「純子のやつも、成績いいしな」新田

「あの娘、前も十位以内だったわ……」坪井

「一緒に、バカやってるのに、何なんだこれは?」新田

「……いいな」坪井

「城西だろ……。そうか、あんだけ賢いんなら、城西にゃいられないな」新田

「……もっと、勉強しようかな」坪井

「……あきらめろよ」新田

「何が?!」坪井

「いや、勉強じゃないよ。中川のこと…。お前、好きなんだろ?」新田

「何を言うのよ、いきなり」坪井

「わかってるよ。でも、あの二人はお似合いだぜ、やっぱり」新田

「新田先輩も、みゆきさんのこと好きだったの?」坪井

「バーカ、初めっから中川がべったりなのに、俺が入る余地なんてあるか」新田

「そうなの。そうね」坪井

「俺は、お前が好きなの」新田

「えっ」坪井

「どうだ、俺じゃダメか?つきあってもらえないか?」新田

「そんな、そんなこと」坪井

「わかってるよ、お前は中川が好きだってことは。だけど、あの二人はもう公認だぜ。だから……」新田

「だからって言われても……」坪井

「ダメか……。いいよいいよ。俺も、いきなり変なこと言って、ごめんよ。前からわかってたつもりなんだけどな、つい」新田

「ごめんなさい。でも、まだ二人は恋人同士っていうわけでもないし…」坪井

「まだ…か。でも…、間違いないな」新田

「でも、あたしは…」坪井

「そうだな。そうだよな」新田

 二人が黙り込んでいると、扉が開き立花が入ってきた。

「どうしたの?」立花

「いやぁ、どうしたら成績が良くなるかなって話してたんだよ。俺ら、劣等生だから。どう、何か秘訣でも教えてくれない?」新田

「そんな…わたし」立花

「純子ちゃん、期末の時は一緒に勉強しようね」坪井

「あ、いいな。お前ら」新田

「新田さんは、中川さんとみゆきさんに教えてもらえばいいじゃない」坪井

「バカ、あいつら二人と一緒にできるわけねえだろ。俺はそんなヤボじゃねえよ」新田

 新田の台詞で、立花と坪井の顔から笑顔が消えて、沈黙が訪れた。しまったと思いながら新田は、取り繕った。

「俺のレベルじゃ、あの二人を引きずり落とすだけだからな。ハハ」新田

力ない笑いでごまかそうとしたけれど、ごまかしきれず、ちょっと取材に行ってくると、部屋を出て行った。


 残された二人は気まずい雰囲気を保ちながらも、笑顔で互いの顔を見せ合った。

「さぁ、ちょっと整理しておかないと」坪井

坪井は出納帳を開いた。

「あのね、はるみちゃん」立花

「何?」坪井

明るく笑顔を向けたが、立花は笑顔を返さずじっと坪井を見ていた。

「どうしたの?」坪井

「あのね、もう、いいじゃない」立花

「何が?」坪井

「中川先輩とみゆき先輩のこと。はるみちゃんの気持ちもわかるけど、でも、いいじゃない」立花

「うん」坪井

「あの二人、絶対お似合いだし……。わたしたちじゃあ無理よ。…勉強が、っていうことじゃなくてね……。うまく言えないけど…」立花

「うん、そうだね。あたし、諦めるとは言わないけど、いいよ、みゆきさんなら。いい人だし、美人だし、……中川さんも気に入ってるみたいだし」坪井

「うん」立花

二人はようやく笑顔を向け合って互いの目を見ることができた。


         * * * 

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