第10話 守ってあげたい-10

 中間テストの結果が張り出されると、掲示板の前は人だかりでいっぱいだった。情報収拾のため中川はカメラで結果を取りにきた。一喜一憂か阿鼻叫喚か、叫び声も聞こえてくる中、中川は三年から順に結果を写真に撮っていた。と、二年の結果を見た時、思わずズームでトップの名前を拡大してしまい、そのままシャッターを切った。そこには、明智美雪の名前があった。

「おーす、中川君」

 半ば硬直したまま掲示板を見る中川の後ろから声を掛けたのは、室和子だった。

「おー、あいかわらず、やってるね。どれどれ、あたくしは何位かな?あっちゃあ、二十位か。落っこっちゃったな。おたく、あいかわらず優秀だね。九位かぁ。いっぺんもあんたに勝ったことないな」室

 中川は室の言うことに耳を貸さずに、ゆっくりと指差した。室は明智の名前を見ると眼鏡を落としそうになった。

「あれ、あんたのとこの、転校生?」室

「そう、みゆきちゃん」中川

「すっごぉおい」室

 中川は部室に入って明智がいないことを認めると急いで教室に走った。慌てて出ていく中川を、居合わせた新田も坪井も呼び止めることはできなかった。

 教室で明智は一時間目の準備をしていた。

「おーい、みゆきちゃん。こんなとこで何してるんだよ」中川

「何って、数学の予習を…。宿題があったから」明智

「何言ってるんだよ!一階に来いよ!」中川

「えっ、何か打ち合わせあった?」明智

「違うよ、来いって!試験の、結果が、出てるんだよ」中川

「そうなの?」明智

「ソウナノ?じゃないよ。一番なんだよ、みゆきちゃんが!」中川

「えっ!」明智

 驚く明智を引きずるように一階に連れて行った中川は、ほらと掲示板を指し示した。明智は辿るように確かめるように自分の名前を見た。驚きの色も感動の色も明智の顔には表れなかった。それでも、明智はまばたきをするのを忘れているようにじっと見つめ、目が次第に潤んできた。中川はその瞬間をしっかりと写真に撮った。何枚目かのシャッターにようやく気づいた明智は、中川の方を見ながら目をしばたかせていた。

「おめでとう!今のご感想をひと言」中川

 中川のインタビュー口調に戸惑いながら、明智はただ、うれしいです、と答えた。注目の輪に包まれている明智を、坪井は黙ってじっと見ていた。

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