第9話 守ってあげたい-9
突然、構内放送に雑音が入ると女の子の叫ぶ声が聞こえた。と、聞き覚えのある声が響いた。
――さぁ、お昼休みの楽しいひとときをお過ごしの皆さん!お邪魔いたします、私、新聞部の中川圭一です。
はっとして、みんな顔を見合せスピーカーに視線を向けた。
――今日はこの場をお借りしまして、皆様にご案内申し上げます。当新聞部では、今回写真集の販売を計画しております。と、いっても、決していやらしいものではありません!そこのカレ!邪な考えは捨てなさい。これは、わが栄光の野球部の歴史を残す大事なイベントです。なんと、あの緑川直樹を筆頭に、過去から現在のヒーローを綴るものです。そこで、皆さんからアンケートを取りたいと思います。一昨年の地区大会優勝の写真から、緑川直樹のホームランシーン。それ以外にも、これは!という写真のリクエストがあれば、どうぞ新聞部の前のボックスにお入れください。憧れのあの人の写真は絶対入れてぇ、という切実なご意見をお待ちしています。どうぞ、ヨロシク!と、いう、ことで、お邪魔しましたぁ!
呆気に取られたまま放送は沈黙に変わった。ざわめきが起こり始めた時、元のように音楽が流れ出した。そこここの教室で拍手が出ていた。明智は急いで部室へ向かった。
部室に戻ると平然とした顔で中川と新田が座っていた。驚いて入ってきたのは明智だけではなく、続いて坪井と立花も飛び込んできた。何なのよと、迫る坪井に中川はVサインをしながら答えた。
「どうだ、いい宣伝だろ」中川
「もしかして、ヤラセなの?」坪井
「トーゼンじゃないか。ホントに乱入なんかできるかぁ。あれは、放送部の室と結託して
作った芝居だよ」中川
「みんなひっかかっちゃったってか?」新田
「当たり前でしょ。だって、あんな叫び声まで入ってたのに」坪井
「室和子ってのもなかなかのタマでね、俺が持ちかけたらすぐOKだってさ。ただし、リベートは払うことになってるけど」中川
「そのへんがな、あの女もかわいくねぇところでね。トンボ眼鏡で、とぼけた顔してやがるくせに」新田
「まぁ、いいや。こうしとけば、色々ご意見もいただけるし、売れるものも作れるってことで、みんな万々歳!」中川
脳天気に話す二人を前に明智は笑わずにいられなかった。立花も笑っている。坪井は延々と文句を言っている。新田はそんな坪井に、売れなかったらどうするんだ、と文句を返す。何でも言って何でもできる。そんなことを思いながら中川を見た。
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