第14話 守ってあげたい-14



 由起子は中川を自分の車に乗せて、立花美生の家へ急いだ。

「先生、そいつ大丈夫なの、本当に?」中川

「大丈夫よ、悪い娘じゃないから。それより、中川君、明智さんのことだけど」由起子

「何?」中川

「あの娘、ちょっと厄介なことになってるみたいね」由起子

「……知ってるよ」中川

「調べたの?」由起子

「あぁ……」中川

「どうするの?」由起子

「どうするって。……俺のやりたいようにやる」中川

「そう、それならいいわ」由起子

 由起子はそれ以上明智の話題を出さなかった。美生の話題を話してくれたが、中川の頭には何も入らなかった。

―――やっぱり、ヤバイことになってるのか。

ただ、それだけが頭の中を巡っていた。自分の情報が間違っていることだけを望んでいたのにこんな形で伝えられるとは。雨の中を由起子の車は疾走していった。


         * * * 


 新聞部の部室に駆け込んできたのは、テニス部の山吹だった。明智の名前を呼びながら、中川に言った。

「城西の連中がいまテニスコートの裏で、明智を呼んでこいって言って待ってる」

明智はそれを聞いて蒼白になったまま立ち尽くしていた。中川はすぐに飛び出し、それを追って新田と山吹が部屋を出た。

 野球部グラウンドからテニスコート横を通り抜け、城仙公園へと続く原っぱに出ると、見慣れない三人がたむろしていた。立っているひとりは煙草をふかし、残りの二人はしゃがみこんで談笑していた。中川が表れると一瞥をくれただけで、また談笑に戻った。中川は息を整えながら、その三人に近づいていった。それに気づいた一人が中川を睨んだ。その男は学生服も着ず派手なシャツを着ていた。後の二人も中川を見た。そして、しゃがんでいた二人が立ち上がった。中川は歩みをゆるめず近づいた。

「なんだ?おまえは?」

一人が中川を睨みながら言った。

「あんたたちか、明智さんに用があるっていうのは」中川

「そうだ。なんだ、おまえは」

「明智さんの代理だ。用件を聞きに来た」中川

「ナニ?代理?おまえなんか、用はねえよ。みゆきを呼びな!」

「明智さんは、いま先生に呼ばれて来れない。だから、用件を伝えておくから、言ってくれ」中川

「みゆきのヤツ、センセイに呼び出しくらってるのか。さすがだな」

三人は静かに笑った。

「おまえなんかに、用はないよ、待ってるから消えな」

中川はじっと立ったまま、そう言った男を見つめた。

「わかんねえのか、みゆきを呼んで来いって言ってるんだよ」

中川は静かに答えた。

「断る」中川

「ナニ?」

「お前らに、あの娘を会わせるわけにはいかない」中川

「誰に口訊いてるんだかわかってるのか?おい」

「おまえはナニモンだ。そんなこという資格があるのか?」

「おまえらこそ、みゆきちゃんをどうする気だ」中川

「どうもこうも、ねえよ。連れにきただけさ」

「連れていってどうするんだ?」中川

「そんなこと、おまえに言わなきゃなんねえのかよ?えぇ」

「おい、こいつ、みゆきの友達なら、いたぶってやろうか」

「そうすりゃ、みゆきも素直に出て来るだろう」

煙草が投げ捨てられた。三人はゆっくりと中川を取り囲んだ。

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