第5話 守ってあげたい-5

 土曜の午後、城仙公園で撮影が始まった。カメラマンの中川は、普段と全く違う真剣な表情で指示を繰り出していた。

「おい、レフ。どこ見てるんだ。みゆきちゃんの顔に影ができてるじゃないか。それと、おい、はるみ。ちょっと、メイクみてやって」中川

「メイクなんて……」明智

「いいの、みゆきちゃん。レフ当てると、スッピンだと、写真の出来が悪くなるから、少しだけね。頼むよ、はるみ」中川

「はい」坪井

いつになく坪井が素直に返事をした。明智は戸惑いながらもされるままに、顔をいじられた。

「OK、じゃあ再開。行くよ、光のいい時間はわずかだから、真剣にな」中川

中川の声に緊張感がぴしっと入る。明智は思わず中川見つめた。

「よし、その表情OK!」中川

シャッター音が連続的に響き渡る。

 まだ夕暮れまで時間があったが、雲が出て翳っている時間が増えたので、撮影は中止になった。終了の声と同時に、明智に疲れが出てしまった。

「どうぞ」立花

そう言いながら立花がお絞りとアイスクリームを差し出した。驚いてしまい、満足に礼も言えないまま受け取ってしまった明智は、まめまめしく動く立花の向こうに中川を見た。新田と機材を片づけている中川の顔は、普段見られない真剣な表情だった。感心しながらアイスを口に運んでいると、坪井がねぎらいの言葉を掛けてきた。

「お疲れさまです。長時間すいません。部長は真剣になると止まらないんです」坪井

「いつも、こうなの?」明智

「いえいえ。いつもは隠し撮りばっかりだから。本格的な撮影は、久しぶりなんです。みんな嫌がるから」坪井

「あ、そうなんだ」明智

「言ってませんでした?」坪井

「うん」明智

「また、だましたな…」坪井

「でも、楽しかったわ。……楽しいクラブね」明智

「まぁ、ちょっとヤバイこともしてるけど、楽しいのは間違いなし」坪井

そう言って坪井はウィンクしてみせた。

「…そっか……」明智

「ねぇ、入部してもらえません。もう、あたし一人じゃ歯止めが効かなくて」坪井

「えっ、あのもう一人の子は?」明智

「純子ちゃんはおとなしいから。無理矢理入部させられたようなものなの」坪井

「あたしも、そうなるのかな?」明智

「嫌です?」坪井

「んん、入ってもいいかなって思ってる」明智

「じゃあ、そうしようよ。ねぇ、部長」坪井

坪井はそう叫びながら中川と新田の方へ駆け寄った。坪井の説明を聞いて今度は中川が駆け寄ってきた。

「本当にOK?」中川

「うん」明智

「やったあー!」中川

中川は明智を抱き上げた。たしなめる新田や坪井を尻目に中川は明智を抱き上げたまま回転した。身を小さくしてされるままの明智を下ろすと中川は、

「よし、今日は歓迎会だ!」中川

と叫んだ。

 賛成の声が新田から出て、立花が拍手をする。坪井は少し不機嫌そうな表情を見せながら、片づけを始めた。


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