掌編小説・『緑のおばさん』

夢美瑠瑠

掌編小説・『緑のおばさん』


掌編小説・『緑のおばさん』


    1 驚くべき未来~ミドリヒト~


 3万年後には、既に砂漠化が進んだ結果、地球は荒廃して、動植物は一切生存していなかった。

 人間のみが、コンピュートピアというのか、人工知能やロボットに傅(かしず)かれて、北極と南極があった地域に局在しているだけだった。

 オゾン層の破壊とCO2の増加で、極端に温暖化して有害な宇宙線、紫外線の氾濫する地球に棲息し続けるのは困難を極め、かつては繁栄を謳歌していたホモ・サピエンスも、「場末」に追い込まれていたのだ。


 だが、これは自業自得だった。・・・


 そうして、長い年月の間の、環境からの淘汰圧力に、人類が適応のためにメタモルフォーゼを繰り返していった結果、現人類というのは、原始人類と比較した場合、全く違った外見の生物となっていた。


 言い換えると、明確に「亜人化」していた。

 コーカソイド、モンゴロイド、ニグロイド、等々人種の違いは従来より存したが、分類上はヒト、は一科一属一種で、寧ろこれは珍しいタイプなのです。

 が、過酷な環境下で特殊な進化をなしていった結果、極地方がガラパゴス化?して、今ではなんと、亜人種の「ミドリヒト」が、大勢を占めるようになっていたのだ!

 宇宙人の類型に、「緑色」というのを当て嵌めるSFとかはよくあったが、遥か未来の地球人と同様の道筋で、そう変化していったということの直観的な予言だったのかもしれない。


 では、なぜ、ヒト、は緑色になっていったのか?


 そこには驚くべき生命の奇跡とでもいうべき逸話が隠されていた・・・



  2 未来の街角


「ミドリヒト」とは何であったか?

 つまりそれは「光合成ができる人間」のことであった。

 宇宙線の遺伝子への照射、突然変異、その偶然的な自然の悪戯により、全身が鮮やかなグリーンの、河童?のような新生児が生まれた!


 そうして詳細な研究の結果、この新生児には、光合成をなしうる能力があって、通常の意味での「食物」というものを必要とせずに、水、日光、空気があれば、例えば縄文杉のように何万年も生きられる・・・


 そういう「アンファン・テリブル」である、そういうことが明らかになったのだ!

 得てしてこうした突然変異は、環境の変化に対応して、種が生き延びるための何か神の恩寵のような特殊な「福音」として齎される・・・

「進化」は偶然ではない・・・サルはシェイクスピアは書けない。

 直立した猿人、或いはミッシングリンク、そうしたことで大脳が極端に発達した・・・

 それは人類の誕生にまつわるミステリーだが、少なくとも全くの偶然ではない。


 恐竜の絶滅も、もしかしたら偶然ではないのかもしれない。


・・・ ・・・


 ミドリヒト、は恐らく遺伝子の変異可能性の中で、「人工的な世界」、自然からもはや食料を調達しえない、そういう状況において発現する、ある用意されたパターンだったかもしれない。

 遺伝子が肉体をヴィークルとしている、真の生命のマスター、そういう説すらある。人類には不可能な、半植物人間、動物と植物のハイブリッド、それを魔法のような、奇跡のごとき天然の遺伝子技術で合成しえたのは、そうした生命のマスターの、深遠な意志、采配だったかもしれない・・・


「グリーン・アダム」とよばれたその赤ちゃんを嚆矢として、「ミドリヒト」は続々と誕生し続けた。


 そうしてやがて、「食料が必要ない」という生存競争上の強みゆえに、「ミドリヒト」はやがて旧来の人類を押しのけて、淘汰して、人間界の主流亜種になっていったのだ・・・


・・・ ・・・


「みんな、気を付けて渡ってね。」


「はあい、おばさん。いつもありがとう!」


「このドームのコロニーはちょっと日当たりが悪いからね。みんなキュウリとか青びょうたんみたいな子供が多いね。そんな植物も食べていたらしいねえ、今は天然記念物だけど・・・とにかく子供たちは国の礎(いしずえ)だし…行政当局に何とかしてもらわないと・・・」


「ヤーパン・コロニー」には何万年も前の通学風景同様に、緑のおばさん」がやっぱりいたけれど、おばさんは別に緑色の服装をしているわけではない。


おばさんは何時間も立ちっぱなしで体力を使うので、全身で光合成ができるように、素っ裸なので、そう呼ばれるのだった・・・



<了>

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掌編小説・『緑のおばさん』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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