絶対に付き合わないループ百合

 恋をしていて一番楽しいのは、付き合う前の日々だと思う。

 もしかしたら相手も自分のことが好きかもしれないと思える時を重ねていく日々。

 付き合いはじめたらもう味わうことのできない、あのふわふわとした感覚。


 もしかしたら、きっと、たぶん、彼女も、私を好きかもしれない。


 ふとした瞬間に目があっただけで胸が高鳴る。彼女が投げかける、熱のこもった視線。同じように熱を帯びた私の瞳。

 仲良しの域をこえつつある私たちを、周りの友人は気付いていないフリをしている。けれど授業中にこっそりスマホを見るように、興味津々でこちらを窺っていることが分かる。


 文系クラスと理系クラスが分かれる高校二年生。

 理系を選ぶ女子は少なくて、クラスに女子は八人だけだった。

 自己紹介の時から、可愛い子だな、と思っていたのが彼女、すずちゃんだった。


 すずちゃんの栗毛色の髪は、毛先がくるくると踊っていて、西洋の絵画の天使がそのまま成長したような愛らしさがあった。でもそのせいで生活指導の先生に目をつけられ、「色もパーマも天然です!」と必死で訴えている。


 私の身長は同い年の男子に引けをとらないくらいには高い。

 頭ひとつぶん身長の低い彼女の頭をぐりぐりと撫でまわすたびに愛しさが増していった。

 人懐こい彼女はまんざらでもなさそうだった。


「たぶん、気付いてると思うけど……」

 輝く宝石のような、ふわふわのわたあめのような、美しさと甘さを全部つめこんだような一ヶ月が過ぎた頃、私は彼女に告白をする。

「好きです。付き合ってください」


 ここで終わり。返事は聞かない。


 私はまた繰り返す。

 彼女が私を意識しはじめたあの日から、彼女が私の告白に答えようとする瞬間までを、何度も何度も繰り返す。


 私たちは絶対に付き合わない。

 恋の中で一番に甘いひとときを、存分に楽しめればそれでいい。

 今はこれが私の最高のハッピーエンド。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る