5.お嬢さまのほうが恐ろしい
ある日のことです。その日やってきたお嬢さまは私の顔を見ても、いつものように笑ったりせず不機嫌そうに形の良い眉を寄せておりました。
「つまらないわ、カブラ。おまえはおもしろいことの一つもできないんですもの」
とうとうお嬢さまに飽きられてしまったかと、自分でも知らなかった大きな悲しみが胸をふさぎます。お嬢さまのおもしろいことは、足をもいだ虫をながめたり棒でぶったりすることのほかにあるのでしょうか? それは私にもできることなのだろうかと、くよくよ考え出した私をお嬢さまは奥の奥まで見通しそうな鋭い目で見つめます。そんな目で見られては私の浅ましい考えが知られてしまうようで、思いつきがあちらこちらでぶつかり合い、いっそうなにも言えなくなりました。
「カブラになっているところは、さわったらカブラみたいなのかしら?」
そう言ったお嬢さまは、ひどいことをおっしゃるいつもの顔でほほえみ、白い花びらのような手を私の顔に向かって伸ばしました。おどろいた私があとじさりますと、それはそれは意地の悪いほほえみで命令します。
「ジッとしてなさい、カブラ」
冬の空のように突き刺さる冷たい言葉で、私の体は石でできた犬のように固まりました。指の一本も動かせず目を閉じることもできず、近づいてくるお嬢さまの小さい手を
お嬢さまの指先が
お嬢さまは、ふれられている
「同じじゃないの。なんてつまらないんでしょう」
ふれられてなにか熱いような気持と、つまらないと言われてスウと冷える気持ちが私の中でまざり、胸がうるさくさわいで一つも言葉がでてきません。それでも、つまらないと言ったお嬢さまに、これ以上あきれられたくない私は必死で頭をめぐらせます。なんとかしなくてはと頭に汗がにじむほど焦ったあまり、口にしていいか考える前にふと思ったことが口から出てしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます