知らないひと
あの誘拐事件から三週間が経った。僕はイッパンビョウトウという所に移され、ある程度の自由が認められた。とは言ってもまだ痛みで動く気にはなれない。それからリハビリというものをやらされている。動かないとどうやら良くならないらしい。
意識がしっかりしてきて分かったことは、この世界は『別世界』だと言う事、それ以外は何も分からない。あの瞬間一体何が起こってどうしてここにいるのか。そもそもここはどこなのかすらわからない。
お昼ご飯を食べ終えていつものように情報収集をしているとカーテンが開く音と共にあの男と中年の男と女が入ってきた。女の人はゆるりとした癖毛を肩まで伸ばした優しそうな目をしていて、男の人も柔らかい髪の毛がクルクルと巻いている優しそうなオーラをまとっていた。驚きと恐怖が混じった僕の目を見るとその男は突然その場にしゃがみ込んだ。
「この度は手荒な真似をして誠に申し訳ございませんでした!」
「――なぜこのようなことを?」
「僕、何かの事件に巻き込まれたんですか」
男の方をじっと見る。男はただ地面に手をついてしゃがんでいた。腹の奥の方で恐怖が怒りへとふつふつと変わっていく音がする。
「ここはどこなんですか」
誰も何も言わない。
「今日、僕の誕生日なんですそれで友達の家に遊びに行こうと思ったらここにいて。散々管みたいなのつけられて」
まだ塞がってない生傷を見せる。
女の人は今にも泣きそうな顔をしていた。
「あなたですよね、ここに誘拐してきたの」
相変わらず男は何も答えない。
「僕が一体何をしたっていうんですか!あなた達は何者なんですか!いい加減答えてください!」
はっと我に帰ると僕の周りには沢山の視線が集まっていた。
「――――家に帰らせてください」
「後日、また詳しくお話に参りますので」
そう言って部屋を去っていった。僕の話を聞いていなかったかのような冷たさだった。
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