第11話 死にかけ事件!?
「これでいいかな……」
朝6時に起きた私は、クローゼットの中のお出かけ用のドレスを何着か着たりしてもう9時になろうとしている。
レナード様が来るのは10時、早く支度をしなくては……。
「ねえ、お兄ちゃん。大丈夫かな」
「あー……うん、いいと思うが」
いいと思う、とかそういうことじゃなくて。もっと言うことあるでしょう?
「ご飯は食べたのか? ずっと服選びに夢中だったが」
「今から少し食べようと思ってるんだけど、お兄ちゃんはいる?」
「いや、俺は任務中だから大丈夫だ」
そう言った義兄のカイルさんは、ドアの側にいる。任務中だと言うカイルさんは全く笑うこともない、無表情である。
少しくらい笑ったらいいのに……とは思うけど騎士の人はこう言う者なのかな。
「失礼するよ」
「あっ、レナード様! は、早いですね」
「シーナに会いたくて早く目が覚めたんだ。そういえばご飯がどうとかと話をしていたがまだ朝ごはん食べていないのかい?」
「はい、ドレス選びと髪を結うのに時間が掛かってしまって……」
ああ、もう。恥ずかしい……服なら昨日の夜決めとけば良かった。計画性のない女だと思われてしまったかもしれない。
「今日も綺麗で可愛い。俺のためにありがとう」
「えっ、いや……レナード様もかっこいいですっ!」
こんなかっこよさの塊みたいな人の隣に立つのにあんなギリギリで悩んでいたなんて、本当に馬鹿だ。
「どんな君も可愛いから大丈夫だよ」
「なっ……レナード様、そう言うことをサラッと言わないでくださいっていつも言ってるじゃないですかっ」
「本当のことだよ、さあ朝ごはんを食べないとお腹空いちゃうよ」
「はい、今から作ります」
私は厨房に行くと材料の確認をする。だけど昨日色々と使ってしまったからか残りのパンと卵くらいしかない。フレンチトーストを作る。卵液を作りそこにスライスしたパンを浸す。フライパンを温め、バターを溶かす。それにパンを焼いた。
それを食べ終えると、レナード様が待っている部屋に向かう。
「準備できた? 今、外に馬車を用意したんだ。行こう」
馬車の前まで行くとレナード様が「手を」と言って手を差し出した。私はそれに手を重ねると先に乗るように促しエスコートする。
「今日は、王都にできたカフェに行こうと思ってる」
「楽しみです」
王宮の門から出ると石で出来ている橋を渡ってすぐ、王都の街が見えてきた。
「わぁ〜すごい。レナード様、いつ見ても素敵ですね!」
あちこちで、露店で元気よく接客してるハチマキしている男の人や道端で話をしている女の人が数人いたり、子供たちが追いかけっこしている……楽しそうだ。
「シーナはいつも楽しそうだね」
「だって本当に楽しそうなんですもの……それに、レナード様と一緒にいられるだけで楽しいんです」
「そんな可愛いこと言わないで、キスしてしまいそうだ」
「えっ……」
私の体温はぶわぁっと上がるのが分かる。ドキドキして、どうにかなってしまいそうだ。
俯いているとレナード様は手を取り手の甲へと口付けした。
「……っ……」
「今はこれだけで我慢するね、さぁ着いたみたいだ。降りよう」
「……っはい」
馬車の扉が開くと兄が手を差し伸べたので手を重ね、降りる。あぁ、もう……。
顔が熱い。
「シーナ? どうした?」
「お、お、お兄様……! な、な、なんでもありませんっ」
「……そうか?」
お兄様にも見られてしまうところだった。こんな真っ赤な顔なんて、家族には見せられないわよ。
「美味しいですね、これ」
「そうだね。この茶葉が気に入ったなら買っていこう」
新しくできたカフェは紅茶の専門店で、侍女が教えてくれた場所だ。新しいと言っても春にオープンした。今は夏だから季節は変わってしまっているが、世界各地からの茶葉を取り寄せているらしく夏には夏の美味しいお茶が楽しむことができるらしい。
今人気店で王宮でも流行っている。
「この、冷たいお茶香りがとても良くて……美味しいです。このクッキーとよく合います」
「そうだね、クッキーはシーナの方が美味しいと思うよ」
「そんな……こと、ないです」
レナード様は「謙虚だなぁ」と言って紅茶を一口飲んだ。
カフェから出ると手芸店に向かった。手芸店では、刺繍用の生地と紫系の刺繍糸を選んでから帰路に着いた。
「お帰りなさいませ、シーナ様」
「ただいま。アンナ」
私がソファに座ると「シーナ様これ」とアンナは言いながら手紙を差し出した。
「王妃殿下からのお茶会のお誘いです」
「王妃様からの?」
手紙の印はしっかりと王妃様の印だということがわかる。だけど何故か何か嫌な予感がするのはなんだろう……。
「参加させていただくわ。お返事しておいてくださる?」
「かしこまりました」
王妃様とお茶会とのことで仕立て屋を呼ぶことにして、久しぶりの外出で疲れてしまったから湯浴みをお願いする。その後、私はベッドに倒れ込むように眠ってしまった。
***
「ようこそいらっしゃいました、シーナ様」
「お初にお目にかかります、シーナ・アーロンと申します」
ドレスを摘み、膝を曲げる。
「みなさんお待ちかねよ? さぁ、行きましょう」
出迎えられ私がお茶会スペースに行くとそこにはマリー様もいた。当たり前か……王太子妃だものね。席に座ると、国王の側妃様の1人……ステラ様が私に紅茶を差し出した。だが、なんか濁っているような下に粉のようなものがある気がする。
どうしよう、これ飲まないと何か言われてしまうわよね。
「ステラ様から外国から取り寄せたものよ、美味しいから冷めないうちに召し上がってください」
正妃様がそう言って早く飲めとでも言うように促す。
「そ、そうですね……ではいただきます」
私は意を決してマグカップに口をつける。紅茶が喉を通り体内に入ると心臓がドクンと嫌な音を立て始める。な、に……これ。
力が奪い取られたように力が入らずマグカップを落としてしまう。マグカップの中に入っていた紅茶が私のドレスに溢れて熱湯だったため足がヒリヒリする。なんの薬だろうか……。
「……っシーナ!」
「……レ、ナードさま……っ」
意識が朦朧とする中、何かに包まれて唇が温かいものに包まれた気がする。
「――大丈夫だ」
優しいその声を聞いて私の意識は途切れた。
◇ ◇ ◇
「……レナード、彼女はどうだ」
「あ、ジョバンニか。うん、解毒薬を飲んだからか落ち着いた。大丈夫だよ……でも苦しそうでっ」
俺のベットに横になって寝ている彼女・シーナは苦しそうに息を吐きながら、眠っている。汗も出ていて変わってあげたいと思うほど。
「本当に申し訳ない、俺の対応が遅れたせいだ。彼女が無事でよかった。それにマリーも落ち込んでいて、謝っていたよ……気づいて上げられなくて申し訳ないと」
「……そうか」
「指示したのは正妃だ、それで正妃の侍女が側妃に伝えた。それで起ってしまったことだった」
俺は、予想した通りだった。正妃が接近するのを予想していたのに俺は何もできずこんなことになってしまった。
「……うっ……」
呻き声を出して苦しむ彼女の手を握りしめる。片方の手で頭を撫でた。
「レナード、お前に伯爵辺境の地へ郁ことを命ずる」
「はっ? 今、何言ってるんですか……シーナがこんなふうになっているのに」
「レナード一人ではなく彼女も連れて、だ。国王陛下にも了承してもらっている」
陛下の言葉ということは、それは絶対だ。
「どこの辺境地なんですか」
「ココット領だ」
「半年前のあの……」
ココット伯爵辺境は、半年前汚職事件がきっかけで没落した。だが住んでいる民はいるために今は文官が領主の代理をしている土地だ。
「レナードは人を惹きつける力や引っ張って行ける能力がある。今、ココット民は国に対し不信感を拭えない。だからそれを払拭し結果を出せ」
「結果を出して皆を認めさせろということですか」
「そうだ、それにお前は王宮に縛られるよりもそっちの方がいい。それに彼女と二人っきりだぞ」
シーナと、二人っきり……そう言われてなんだかいいかもなんて思ってしまった。だから俺はそれに頷いた。
「分かった」
「ありがとう、レナード」
ジョバンニは報告しに行くと言ってから出ていった。俺は、もう一度彼女を見ると彼女の唇に口付けした。
「早く、目が覚めますように……」
そう呟いて俺は部屋にあるソファで眠った。
***
「シーナ、準備できたかい?」
「はい。レナード様」
今日は私と彼の新天地への引っ越しの日だ。
あの日、私はある毒薬を盛られたらしい。色が濁っていたのも下にとごっていた粉の正体は毒薬だった。あのまま放置だったら確実に死んでいたとレナード様に聞いた。だけど、その後レナード様の解毒薬と応急処置が良くて一命を取り留めたらしい。
目が覚めて伝えられたのは【ココット辺境地】への引っ越しだった。
「じゃあ行こうか」
「はい、レナード様」
彼の腕に手を添えて馬車まで歩くと私と彼は馬車に乗り込んだ。
転生悪役令嬢は、処刑される運命を回避するために嫌われ皇子と婚約します! 伊桜らな @koto_yuki
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