第5話 皇子様から求婚されました。
「シーナ様、ごめんね。シェパードもカリサもあんな態度で」
「いえ。私の態度が悪かったのかもしれませんし……気になさらないでください」
部屋へと案内された私はレナード様と向かい合い座り、お茶を頂いていた。
「悪い人ではないんです」
「はい、気にしていませんから」
まぁ、ああいう態度されるのは初めてじゃないし気にはならない。
ただ、何故……王宮の執事や侍女があんな態度をとったんだろう。噂は王宮にも広まっているのだろうか。
「そうですか、良かった……シーナ様のせいではありませんので」
「ありがとうございます、噂のこともありますし仕方ないですよね」
人というのは噂話は大好きだからな。それはどこの世界でも同じということか。
「シーナ様、この度は急な縁談をお受けしていただきありがとうございます」
「……えっ! レナード様!? 頭をお上げくださいっ」
「……はい。しかし、私なんかが縁談相手だなんてあり得ないでしょう? なのに」
なんか……? 言葉に何かが込められている気がして、でもそれは聞いてはいけない雰囲気だ。
「……私こそ、です。私は、ほんの少し前までは貧乏な平民でした。それも、母は遊女……そんな私にレナード様は勿体無いくらいの相手です」
「いえ、身分など関係ない。前は平民でも今は立派な公爵令嬢として立派に振る舞われていらっしゃるでしょう?」
そう言って微笑む彼に不覚にもキュンとしてしまった。だって、かっこよすぎるんだもの……!
「僕は、気にしません。大切なのは今であると思うのです」
「……っ!?」
そんなストレートにイケメンな顔で言われても……私、こういうの慣れてないんですよ。
心臓の音がドキドキと激しく耳から聞こえるようだ。
「本当に可愛らしい人だ。今回、シーナ嬢に縁談が入ったのは国王に僕があなたのことを話してしまったからなんだ」
「……え? 国王様に?」
国王様に私のことを話したってことだよね……何を言ったんだろう。なんだか怖いんですが。
「国王は私の縁談を探していてね、誕生日会は国王が用意した妃探しの一環だった」
「え、妃探し!?」
驚いて大きな声を出してしまい、口元を手で押さえる。
「驚かせてしまい申し訳ない。あなたと別れ、王宮に戻ったら国王に『レナード、パーティーでは一緒にいた相手は誰だ』と聞かれてしまい……あなたのことを説明した翌日には公爵家に縁談話の電報を出したと……」
「そうですか……ということはこれは国王様が独断でしたということですか?」
じゃあ、レナード様は自分の意思ではなく国王様に言われたことということか……。そういえば、夢の中でシーナとの縁談は勝手に決められてしまったと夢の中のレナード様は言っていた。
「いえ、国王の言いなりであなたに会っているのではないのです」
「……?」
「公爵邸でも言っただろう? 僕は、シーナ嬢に一目惚れしてしまったと」
確かに言われた気がするけど……あれは皆が見ていたからじゃないの?
「そして今、はっきりとわかりました。僕は君を好きになりました」
「えっ……ええ!?」
「僕の妃になってくださいませんか」
き、妃ぃ─︎─︎!?
***
「シーナお嬢様、お加減はいかがでしょうか」
「……あ、はい。だ、大丈夫です」
レナード様に求婚を受け、一週間。
私はあの後のことをよく覚えていない。あの後にどうやって帰ってきたのか……そもそもパーティに参加できたのか。
『僕の妃になってくれませんか?』
ただその言葉だけは鮮明に覚えている。思い出すだけで恥ずかしくて恥ずかしくて彼がいるわけでもないのにドキドキしてしまう……末期すぎる。
「お嬢様、本日も王宮から可愛らしいお花が届きましたよ」
王宮……しかも黄色のガーベラ……確か花言葉は【究極の愛】だったはず。送り主はレナード様だ。
「お嬢様は愛されてますね。お返事しないんですか?」
「だって……なんだか恥ずかしくて」
「そうですか、でもきっとお待ちしているのではないですか? 花束とお手紙毎日届きますよ」
確かにそう。一週間、ガーベラとお手紙が届く。もちろん私宛で……。
【シーナ嬢、私はあなたを愛しています。あなたを想わない日はありません。 レナード】
【シーナ嬢に会いたいです、あなたを愛しています。 レナード】
【愛しいシーナ嬢……愛しています。毎日あなたを思っています レナード】
それはそれは、顔が熱くなるほどの愛の告白で。免疫のない私には恥ずかしくて恥ずかしくて……こんな恋文をもらっていて面と向かって会えるわけがない。
「しょ、食事にいきましょう! そろそろ朝食の時間よね!」
「ええ、そうですが……」
「さ、行きましょう……お父様もお母様も待っているわ!」
朝ごはんを食べて落ち着きましょう。ご飯を食べてこれからのことを考えよう。
私は、侍女と一緒に下に降りて食事の部屋に向かった。
「お父様、おはようございます」
「シーナ、体調はいいのかい?」
「はい、とても良くなりました。だから朝食を一緒にと思いまして」
私は席に着くと料理が運ばれてくる。フォークを持つと、執事が走って慌てた様子でやってきた。
「あのっ! 旦那様! あ、お嬢様もいらっしゃったんですね!」
「どうしたんだ、そんなに焦って」
汗をかく執事にオズさんはそう問いかける。
「はい、レナード皇子がいらっしゃって─︎─︎」
「え……なんだって? 皇子が?」
「はい、花束を両手に持ちシーナお嬢様に会いたいと」
嘘でしょ!?
「ど、どうしましょうか!? 旦那様……っ」
「あ、ああ。お、おもてなしをっしなくては……!」
いつもは何事にも動じることがないオズさん専属執事さんと冷静に事を判断するお父様がワタワタと慌てていてレナード様は本当に王族の方なんだと思わされる。私そんな人に求婚されたんだ……。
「シーナお姉様? レナード王子の元に行かないんですか」
突然、ミリアに声をかけられてハッとする。私に会いにきたんだよね……私が行かなきゃいけないわよね。
「行ってくるわ……ミリアありがとう」
「い、いえっ私は」
ミリアは今まで見たことがないくらいに照れていて可愛かった。初めてミリアが可愛く見えた。この子も普通にしていたら可愛いのに……でも私は
「ミリア、お母様行ってきますね」
私は侍女と共にレナード様がいる客間に向かいドアをノックし「シーナです」と声をかけた。するとすぐにドアが開き、レナード様が立っていた。
「シーナ嬢……! あなたに会いたくてきてしまいました!」
「あ、ありがとうございます」
「先日は僕の気持ちを押し付けてしまったのではと思っていたのです」
「いや、そんなことは……」
ストレートに愛の言葉というやつを言われたことがなくて照れただけです。きっと女の子ならみんな照れるよ。
「シーナ嬢、僕は決めました。これから僕はあなたに好きになってもらえるように頑張ります」
「えっ」
「これから公爵家に通います。会っていただけますか?」
それってデート……というやつでしょうか?
「それはデートということですよね」
「はい、あなたと一緒にいたいのです」
レナード様は私の手を握るとそう真剣な声で言った。
「シーナ嬢、シーナ嬢の好きな場所はどこでしょう? まずはそこに行きましょう」
「好きな場所ですか……」
今までのシーナなら迷うことなく煌びやかなパーティーが好きだと言うんだろう。だけど私の中身は松井瑠奈なのだ。
「静かな、場所ですかね」
「静かな場所ですか……うーん」
レナード様は何かを考え込むように唸っていて、そんな横顔までかっこいい……─︎─︎って違う!
何か提案できるといいんだろうけど生憎私にそんなところは知らない。
「そうだ、精霊の森に行きましょう」
「精霊の森?」
「はい、そこなら静かですし過ごしやすいと思うのですが」
精霊の森は、最近貴族の中で人気のスポットだ……確か本には昔は妖精たちが住んでいたとか、妖精たちが運命の人に引き合わせたとか色々書いてあった気がする。
「ダメですか? なら……そうだな─︎─︎」
「精霊の森! 行きます」
きっとどの提案もピンとこないと思う。だけど、レナード様が精霊の森に行こうと言うならいいところだと思う。
「そうですか、よかった……早速行きましょう、シーナ嬢」
「い、今からですかっ」
わたしが何かを言う隙を与えず、レナード様に手を引かれて私は屋敷をでた。
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