第4話 縁談話。

 誕生会からひと月経った頃、オズさんは私とミリアを呼んだ。



「……お父様、なんの御用でしょう?」


「縁談がきた」



 え、縁談? 縁談って誰の……?

 夢の通りなら、これは私に来るはずだ。



「ミリアにだ」



あれ……? 私じゃないの?



「わ、私に?」


「そうだ」



相手は誰だろう? 夢は皇子だったはず……でも私じゃないから、誰が相手なの?




「それとな、シーナには王族からの縁談が来ている」


「えっ?」



それに私より先にミリアが反応した。



「お父様? なぜ、お姉様に王族の方から縁談が?」


「あぁ、私にもわからないが……ミリアには男爵家から来ているんだ。こちらもいい縁談だ」


「……!! 男爵家?」



 男爵家は公爵家より下の身分。私より下になるなんて、嫌なんだろうな……。


 夢の中でも思ったのだけどなぜ王族が私に縁談を持ってきたのだろう? 夢の中で見たシーナは、教養も作法も出来ない名だけの令嬢だったのに。


 

「男爵家当主はミリアを気に入っていてね、ぜひにと直々にお願いされたんだよ」


「……そう、ですか」



ミリアはお父様には言い返すことができず言葉を詰まらせた。



「シーナ、皇子が君に会いたいと言っているから明日パーティーに招待を受けた。そのパーティー前に会ってくれ、と」


「とても光栄ですわ。しかし、私でもいいのでしょうか……以前まで何も出来ずにいた庶民なのに」


「そんなこと関係ないと思うが……明日の昼過ぎに迎えに来ると手紙があったんだ」



 え!? お迎えまで来てくださるの? そういえば皇子って誰なんだろう……? 


 私は、部屋に戻り王族について調べることにした。



「……なんで、書いてないの!」


「当たり前だろう? 本に書いてあるわけがないじゃないか〜」



私の後ろには久しぶりに見るルゥが立っていた。



「ルゥ! 久しぶりだわね!」


「まぁな。遂にが来たようだな」


「え……なんで知ってんの?」


「俺はなんだって知ってるさ。そうそう、王族のことを知りたいんだろう?」



ルゥはベッドに座り、足をブラブラさせて「ふふーん、ふーん」なんて鼻歌を歌っている。



「よいしょっと……!」



 ルゥはベッドからスッと立ち上がり「僕が教えてあげるよ」と手を拳にして胸をポンっと叩き、ドヤ顔をしてみせた。



「じゃあまずはこの国、オーウェンの王族は一夫多妻制だ。オーウェンの国王のラファエル様は、4人の妻がいるんだよ」


「よ、4人も!?」


「そうだよ、ラファエル様の正王妃・サーニャ妃。2番目の王妃のスカーレット妃、3番目のステラ妃に4番目のレノア妃だ」


「……そんなに覚えられないよ」



王妃様が4人もいるだなんて思ってなかったんだもの……。



「まぁ無理ないよね。で、皇子のことなんだけど〜……」



そう軽い口調で言うルゥは、そばに置いてあった焼き菓子を一つ取り口に入れて「んん〜美味し!」と口に入れたまま言うといきなりうさぎの姿になる。



「る、ルゥ!」


「ぼく、眠くなってきちゃった……続きはまたね!」


「えっ! ルゥ!? 縁談の相手だけでも─︎─︎」



 ……もう、いないし。

 縁談相手が誰なのかわからないけれど、なんとか頑張らないと。


 結局分かったのは、この国が一夫多妻制だということと王妃様が4人いるってことだけ。

 それ以上、情報はなく調べるにも調べられない……そんな不安を抱きながら夜を過ごした。


 そして翌朝。



「お、おはようございます……っ」


「おはよう、シーナ。今日は眠れなかったのかしら?」


「は、はい……お母様。だって、皇子様にお会いするんですよ? 不安しかないです」



昨夜から不安と緊張が交互に襲って料理が手につかない。



「そうよね、でもご飯は食べないといけないわ。皇子様の前でお腹が鳴ってしまったら恥ずかしいわよ?」



 それはそうよね……。それを想像するだけで恥ずかしくなるわ。



「しっかり、食べます」


「はい。よろしい……しっかり食べておきなさい」



私は朝食を残さず食べてお部屋に戻ると、入浴の準備がされていてメイドが2名待っていた。



「シーナお嬢様。今日はエステをしましょう! ドレスも皇子様が送ってくださったドレスですわ!」


「エステ?」


「はい、身体も綺麗にしなくてはですよ!」



 そう気合い満々のメイド2人に断ることが出来なくて、されるがまま入浴にエステをしてもらいドレスに着替えた。




 ***



 昼を過ぎた頃、縁談相手だと言う皇子がやってきた。



「はじめまして、シーナ嬢。私、レナード・オーウェンと申します」


「れ、レナード様!?」



白のジャケットを着た彼は、ダンスをご一緒したレナード様だった。



「……申し訳ありませんっ! 私、沢山無礼を……」


「いえ、私の方こそ身分を隠していたのですから無礼だとは思ってはいませんよ」



 いやいやいや、とんでもなく無礼だったはず!!

 


「ははっ、君は表情がコロコロ変わって面白いな」


「レナード様……! わ、笑わないでください」


「ごめんごめん。僕ね実は、シーナ嬢に一目惚れをしたんだ」



 ……え、ひとめぼれって、え?

 一目惚れってあれだよね……? 会った瞬間に好きになっちゃった……っていうやつだよね。



「……聞いてる?」


「えっ、あ……はい。あの! 一目惚れって聞こえたんですが」


「今、君に一目惚れしたと言ったからね」



な、な、な……! 



「何を言って……私に一目惚れってどういうことでしょう?」


「ははっ、君は実に可愛らしい。答えたい気持ちは山々なんだが……公爵様の前で求婚はしたくないんだ」


 


 私は、レナードの言葉に唖然として何も言わずにいれば「あらまぁ!」と顔の前に手を重ねて嬉しそうに言うエリー夫人がいた。



「エリー夫人! どうして……?」


「王宮でパーティーがあるからシーナ様も誘おうと思っていたのだけど……レナード皇子がいるなら、必要ないわね」


「え! あの……」



エリー夫人は「ではレナード皇子。私は失礼させていただくわ」とレナード様にそう言うと、ここからいなくなった。



「さぁ、シーナ嬢。行きましょう」


「は、はい……」



 私は心配になりながらもレナード様のエスコートで王宮馬車に乗り、公爵家を出た。


 エリー夫人が誘いに来たということは彼女も伯爵様とパーティーに参加するということよね……後で会えるかも、そう思いながら私は馬車に揺られて王都へ向う馬車から外を眺めた。



 馬車に揺られ1時間ほどで王都に到着し、降りるとレナード様と入ったのは宮殿ではなく敷地内にひっそりとある屋敷だ。



「どうぞ、シーナ嬢」


「ありがとうございます」



屋敷の扉を開けると「おかえりなさいませ、レナード殿下」と迎え来る男女2人。



「シェパード、カリサ。ありがとう……こちらシーナ嬢だ」



 レナード様はそう私を紹介してくれたので私も自己紹介をし、膝を折りお辞儀をする。




「はじめまして、シーナ・アーロンでございます」



そう言ったが、なぜかスルーされてしまいポカンとなる。何か間違えてしまっただろうか……?










 




  


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