第3話 侯爵令嬢様の誕生会
「─︎─︎まぁ! お嬢様、お綺麗ですっ」
「ありがとうリオ」
侯爵家令嬢の誕生日会、当日。私は朝からお土産の品を作り今はブルーのサテン生地で作られたドレスを着て髪のセットをしてもらっていた。
「それにお土産の品も素敵ですわ……美味しそうなクッキーに可愛らしい刺繍のハンカチ。きっと侯爵令嬢様もお喜びになります」
「そうだといいんだけれど……あ、そうだわ! リオにもプレゼントよ」
私は、リオの分もクッキーを作っていたのでラッピングしたそれを彼女に渡す。
「いいのですか? ありがとうございます」
「いつもお世話になっているお礼です。受け取っていただけますか?」
「はい! 嬉しいです」
拒否られなくて良かった……リオも味方に付けた方がいい。常にそばにいる人が敵にでもなってしまったらやり難い。
「もうすぐエリー夫人がいらっしゃるんでしょう? そろそろ降りて待っていようかしら」
「えっ! いらっしゃる時に呼びに行きますと侍女長様が」
あー……侍女長ね。
ここの侍女を取り仕切るレイラ。勤務歴が長くて、プライドが高い。オズさんの死別した奥さんの代わりに女主人として公爵家を守ってきただけに、私以外にも強く当たる。
だが、ミリアにはとびきり甘い。
レイラは、ミリアの幼い頃から側にいた侍女でかわいがっている。ミリアの言うことに、はいはいと聞いているのだ。
「私がエリー夫人を待ちたいの、下に降りるわ」
「えっ、シーナ様!?」
私は、手土産のカゴを持ち下へ降りた。
***
「私、ユリア・バードでございます。侯爵家へようこそいらっしゃいました。シーナお嬢様、エリー夫人」
バード侯爵家に到着すると、出迎えてくれたのは主役のユリア嬢。
「お誕生日おめでとうございます、私シーナでございます……こちらユリア嬢にクッキーとハンカチです。受け取っていただけますか?」
「まぁ! ありがとうございます! シーナ様がお作りになったの?」
「はい」
ハンカチの刺繍は2、3日かかってしまったがなんとか今日まで完成できたのだ。
「ありがとうございます、ごゆっくり楽しんでくださいね」
「ありがとうございます、ユリア嬢」
ドレスを摘み、膝を折ってお辞儀をすると屋敷の中に入った。
屋敷内のパーティー会場では、たくさんの人が集まり立食し音楽に合わせて踊っている。
それは煌びやかで楽しそうなな空間が広がっていた。
「シーナ様? 大丈夫?」
「あっエリー夫人……どうすればいいかわからなくて、どうしましょう。私」
「本当に可愛らしいわね? 大丈夫よ、シーナ様。後で主人を紹介いたしますね」
「伯爵様を、ですか? 今、いらっしゃるんですか?」
伯爵様ですもの。招待されているに決まってるよね。
「エリー、待ったかい?」
「ジーグ様。いいえ、待ってないですわ」
後ろからやってきた男性がエリー夫人に話しかけた。この人が伯爵様かぁ。
エリー夫人は顔を赤らめていて好きなんだなぁって感じられる。
伯爵様はエリー夫人に優しく笑いかけていて、彼の方も恋してるんじゃ? という表情をしていた。
「ジーグ様、こちら公爵家ご令嬢のシーナ様ですわ。とても真面目で勉強熱心なのです!」
「エリー落ち着いて……はじめまして、シーナ様。私ジーグと申します」
「はじめまして、シーナです。エリー夫人にはとてもお世話になっています」
伯爵様は「よろしく」と、帽子を少し持ち上げて会釈をした。
「2人に紹介したい人がいるんだ」
伯爵様は、キョロキョロと何かを探すと「レナード! 早く来い!」と今来たばかりだろう男性を呼んだ。
「シーナ嬢、エリー。こいつは、レナードと言って学友であり仕事を共にしているんだ」
「そうなんですか? エリー・マーカスです。よろしくお願いします」
エリー夫人は、躊躇なくレナードさんに挨拶した。私も自己紹介しなきゃ……。
「レナード様、はじめまして。私シーナ・アーロンでございます」
ドレスを少し摘み膝を沈ませお辞儀をした。
「レナードです。よろしくお願いいたします」
彼を見ると、180センチくらいの高身長に藍色の髪に紫の瞳。髪色だけでは地味だと言われるだろうが、顔は誰が見ても美形だ。
「一曲、ご一緒願えますか?」
一曲ってことは踊るってこと? しかも一緒に?
無理無理!! だって、ダンスのレッスン数回やっただけなのに……失敗したら、今まで良くしてくれたエリー夫人に嫌われるかもしれないし。
「……シーナ様? ダメでしょうか?」
「い、いえ……っ! 私、ダンスに自信ないんです─︎─︎うわぁっ」
いきなり手を引かれて勢い余ってレナード様の胸に飛び込んでしまった。
「も、申し訳ありませんっ! あの、レナード様……っ」
レナード様の顔を見ることが出来ない。抱きついた感じになってしまったのも恥ずかしいのだが、なんせこんな接近したのは初めてで……そういえば、肇くんとはこんな近くで触れることはなかったな。
「私は貴女と踊りたいのです。失敗を恐れず、私を信じてください」
レナード様は、そう言葉を掛けて「私と踊ってくださいますか?」と付け加えて私に問いかけた。
「……はい、喜んで。よろしくお願いいたします」
***
曲が止んで私は緊張の糸抜けてしまったかのように身体がフラッとなる。
「シーナ様大丈夫ですか? やはり無理をさせてしまったでしょうか……」
「レナード様……大丈夫です。心配してくださりありがとうございます」
倒れかけた私をすぐに支えてくれたレナード様と目が合いドクンっと心臓が音を立てた。まるで時が止まったようで、それと同時に恥ずかしさで体が熱くなる。
「いえ……そうだ、あのベンチで少し休みましょうか」
レナード様に優しくエスコートされながら、ベンチに座ると「少し待っていてください」と彼は言いどこかへ言ってしまった。そういえば……こんな展開あったかな。あの夢の中では、レナード様と出会う場面はなかったはず。
もしかして、未来が変わったの……? だって、夢の中では誕生日会にも行ってないはず。
「レナード様、遅いなあ……」
もしかしてどこかへ行ってしまったのかしら。本当は私とはいたくなかったけど、社交辞令としてダンスしてくれただけなのかもしれない。
「シーナ様お待たせしましたっ」
そんなことを思っていたのにレナード様は両手に料理を乗せた皿を持ち現れた。
「レナード様……それは?」
「食事されていないと思いまして……持って参りました」
「私に……ですか」
「一緒に食べましょう!」
レナード様は隣に座り、お皿を私に手渡した。
「ありがとうございます、レナード様。いただきます」
私は持って来てくれた飲み物を一口飲んでから料理を食べる。美味しくて夢中になって食べていると視線を感じてレナード様の方を見る。
「美味しいですか?」
レナード様は、ジィーっと私を見ていてびっくりする。
「……っ!? は、はい……とても」
「シーナ様はとても美味しそうに食べますね」
そう言われてとても恥ずかしくなる。食い意地が張ってるみたいだっただろうか。
実は私、前世の時から食べるのが大好きだった。休日、肇くんとデートの予定がない日は話題のカフェやレストランビュッフェに行っていた。
でも、今思えばここ最近休日はカフェ巡りをしていたな……なんて考えたらもう私に対しての気持ちはなかったってことか。
今頃になって、悲しくなるなんて……可笑しな話だ。
「シーナ様? ご気分がやはり優れないのでは?」
「……あっ、ごめんなさい」
いけない、いけない!
レナード様と一緒にいるのに違うこと考えちゃうなんて……私、緊張しているのかな。
「─︎─︎気にしない方がいいですよ、シーナ様」
「え……?」
「貴女のことを知りもしないで噂ばかりしている人たちのことは気にしないでください」
え……? と思って、周りを見るとどこかのご令嬢様方が私を見て嫌な笑みを浮かべている。
「あ、ありがとうございます……私大丈夫ですよ」
「そうですか、なら良かったです」
私が言われてるってことは、私といるレナード様に悪評がいくんじゃ……。
「あの……レナード様? 私と一緒にいると変な噂たっちゃうかもですよ! 離れた方が」
そういえば、レナード様って何者なんだろうか。
言葉遣いや所作も丁寧だし……。
「大丈夫ですよ、私がシーナ様と一緒にいたいと思っているのです」
「ありがとうございますっ」
何、この人! 紳士過ぎる……それにイケメンで、眩しい。
「さぁ、もう一度乾杯いたしましょう」
その後も、レナード様とお話をして……この世界に来て久しぶりに楽しく過ごすことができたかもしれない。
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