第2話 ミリアとエリー夫人


 ***



「……はぁ……ぁ! ゆ、め?」



 起き上がると汗びっしょりで震えていた。もしかして、夢の内容が私の運命なの?



「よっ! シーナ」


「え……、ルゥ? 今日は、ウサギの姿なのね?」


「そうだよ、シーナの人生を君の夢に流したけど見れた?」



 ルゥの仕業だったのね……? だけどよく理解出来たわ。私は……わがまま言いたい放題して、わがままによって恨みを増幅させた妹に処刑されるってことは。



「理解できてよかったよー……だからね、シーナは今は立ち振る舞いや教養を身に付けるんだ」


「えぇ、そうね。まずは、オズさんの懐にしっかり入ってやるわ!」


「それはいいね、オズは今のところは君のことを気に入っている。だが、何度も言うがミリアには充分に気をつけるように」



 強敵ね。

 だけど、まだ接触がないしどんな子かわからない。



「分かってるわ、もうすぐ侍女が来るから……」



 ……って、いないし。消えるの早いなぁ。

 すると、すぐにドアがノックされ私は「はい」と返せば侍女が入って来た。



「おはようございます、シーナ様」


「おはよう、えっと……」



 そういえば名前……なんだろう。元々のシーナは知ってるんだろうか。



「あっ、リオです。リオと言いますっ」


「リオ、ね。いい名前ね」



 そう言うとリオは照れたように笑い「ありがとうございます」と俯いて言った。



「お嬢様、今日はこちらにしましょうか?」


「ええ、お願い」



 リオと数人がやって来るとドレスを着せられ、髪をセットして貰うと食堂のようなところへリオと一緒に向かった。




 翌日─︎─︎……




「おはようございます、お父様お母様」


「シーナ、おはよう。昨日は疲れただろう? よく眠れたかい?」



 オズさんとアリアさんはもうすでに食べ始めている。



「はい、とてもよく眠れましたわ」


「そうかい……では俺は先に失礼するよ」



 オズさんはナプキンで口元を拭くと席を立つ。それと同時にやってきたのはメアリだ。



「遅いな、ミリア。時間は守りなさい」


「……はい」



 ミリアはオズに見られないように歯ぎしりをしている……うわぁ、可愛い顔が台無しですよ?

 


「おはようございます、お姉様お母様」



 ミリアは作り笑いをしながら、膝を折りお辞儀をした。



「おはよう、ミリアさん。さあ朝食を食べましょう」


「……ええ、ありがとうございます」



 メチャクチャ機嫌悪い。

 私はもう退散してもいいかな。一度も目を合わせるだけでプンプンしてるんだもの……目は合わしてもくれないなんて。



「私は、お先に失礼致します」


「シーナ、今日も頑張りなさいね」



膝を折り、お辞儀をして「はい、ありがとうございますお母様」と言い微笑む。そして、この部屋から出た。





 ***



「─︎─︎あら、シーナ様。美味しそうに焼き上がったわね」


「ありがとうございます、とてもいい香りがします」



 午後、座学が終わるとお料理をエリー夫人とすることになった私。

 実は、前世では料理をするのが好きだった……肇くんに食べて欲しくて、頑張ったんだよね。



「シーナ様? どうかされましたか?」


「いえ、何もありません。は、早く食べたいですっ」


「ふふっ……そうね。盛り付けをしてお茶の時間にしましょうか」



エリー夫人と一緒にお皿にクッキーやマフィンなどを乗せて、テーブルに並べる。



「そうだわ! ミリアお嬢様もお呼びしましょうよ」


「え……ミリアも?」


「今いらっしゃるんでしょう? ね?」



確かにいるけど……私の誘いに来るかな。あんなに嫌われているのに。

 でも、もし来てくれたら彼女のことが少しはわかるかもしれない。



「そうですね、ミリアも呼んで参ります」



 今いる部屋から彼女の部屋は結構歩く。公爵家とあって広いお屋敷だなぁ。

 ミリアの部屋の前で止まり深呼吸をするとドアをノックした。



「ミリア? いらっしゃいますか?」




 そう問いかけるとガチャっとドアが開き、ふわふわの髪をして出てきたミリア。

 


「どうかされました? お姉様……」


「今、エリー夫人がいらっしゃっているのだけど一緒にお茶しませんか?」


「私が……あなたと?」



 嫌そうな顔をしてミリアは低い声で言う。オズさんの前では可愛い声だったのに……どっちが本当のミリアなのか分からない。



「ええ、そうよ。エリー夫人も是非にと仰っているわ」


「そ、そう。エリー夫人のお誘いなら行きますわ。支度をして参ります」


「分かったわ、待っているわね」



 ドアを閉め、ドアに向かって心の中で叫ぶ。何あの態度! 過去に何かしちゃったのかもしれないけどあの態度はなくない? そんなに私とは話したくないの?



「……はあ、戻るか」



 ため息を吐きエリー夫人が待ってる部屋へと向かい歩く。すると、180センチくらいだろうか背の高い青年が反対方向からやってきた。え、誰だろう……。オズさんのお客様だろうか。私は失礼のないように膝を折りお辞儀をした。



「………」

 


 青年は何も言わず、礼をするとスタスタと通り過ぎて言った。感じは悪かったが……結構イケメンだったなあ。この世界には容姿端麗の人しかいないの?



「ただいま戻りました」


「シーナ様遅かったわね、ミリアお嬢様はいたかしら?」


「はい、支度をしてから来るそうです」



 エリー夫人の隣に座り、談笑していると「失礼いたします、ミリアでございます」と言った彼女が入ってきた……それはそれは可愛らしい声で。


「ミリア、久しぶりね。以来かしら?」


「……っ! はい、そうですね……エリー夫人」



 なんか雰囲気が……“あの日”って何? エリー夫人の言い方に含みがあった気がするのは気のせい?



「まあ、食べましょうか? シーナ様と一緒に作ったのよ。シーナ様はとても飲み込みが早くてねとても楽しくできたのよ」


「いえ、エリー夫人。エリー夫人の教え方が分かりやすかったので……なのでエリー夫人のおかげですわ」


「あら、まあ……ふふっ、ありがとうございます。嬉しいわ」



 エリー夫人は右手を口元に当て照れたように言った。



「そうだ、ミリアは侯爵令嬢様の誕生会に招待されました?」


「えっ……はい。招待を受けましたわ」


「じゃあ、シーナ様と一緒に行きますのね?」



 侯爵令嬢のお茶会? え、社交界というやつかな?


 


「いえ……侯爵令嬢様はお姉様のこと招待されていないのです……だから一緒にはいけないのです」



 ただ単に、私とは行きたくないんだろうな。だって噂があるらしいし……公爵令嬢で生きてきたミリアにとっては恥ずかしいんだろう。



「そうなのですか? では私がシーナをお連れしてもよろしくて?」


「……エリー夫人がよければ、私には何も言えないですわ」


 

 本当にこの二人、何かあったんだわ。火花は散るし、ミリアは黒いオーラが出ているしエリー夫人にも変なオーラが出ている。数日見ているだけだと、とても穏やかな方なのに……。



「よかったわ! シーナ様、もし良ければ私とご一緒してくださるかしら?」


「はい、喜んで行きますわ。エリー夫人と行けるなんて心強いわ」



 ミリアとじゃなくてよかったかもしれない。悪い噂に歯車をかけてしまうし、絶対に味方にはなってくれないだろう。エリー夫人なら、楽しく行けそうだ。



「ありがとうございます、シーナ様」



 彼女は私の両手を握り「嬉しいわ」と言って、ドレスの話に花咲かせている。一方、蚊帳の外のミリアは歯ぎしりをし、唇を噛んでいて血が滲んでいる。



「ミリア、唇は噛んではダメよ? 血が出ているわ……このハンカチお使いになって」



 私はハンカチをミリアに差し出すと口を開いた。



「あ……はい、ありがとうございます」


「いいのよ」


 


 仮を作ってしまったのが嫌なのかハンカチで口元を隠し再び唇を噛む彼女。



「お優しいわね、シーナ様」


「いえ、家族ですもの当然ですわ」



 私はそんな彼女に抗うようにふふっと微笑んだ。ミリアは早くここから出ていきたいという気持ちがダダ漏れだ。



「私……今日は失礼いたしますわ!」


「もう行ってしまうの?」



 一応そう引き止めてみる。



「少し体調が優れなくて……せっかく来てくださったのにごめんなさい」


「体調が悪いのなら仕方ないですね……送りましょうか? ミリア」


「い、いえっ! お姉様はエリー夫人とゆっくりしてください……ではっ」



 もう少しお話がしたかったけど、拒否しているのが見え見えだったからなぁ。



「ごめんなさいね、シーナ様。昔はあんな子じゃなかったんだけど……」


「いえ、でも中々仲良くできなくて……やはり私が他所者だからかしら」


「ミリアはシーナ様が羨ましいんですよ。シーナ様は美人で、なんでも出来ちゃうんですもの!」



 エリー夫人は褒めちぎるが、私は不安でいっぱいだ。なんとか彼女を味方に付けることが出来たが、未来が変わったのか分からない。


 それに、初めて外に出るから……何かやらかさないか心配しかない。



「それにミリアは私のことを嫌っているから仕方ないですわ」


「え? ミリアがエリー夫人を?」



 こんなに優しい人を嫌うなんて……何があったの?



「本当は伯爵家に嫁ぐのは彼女ミリアだったんですよ」


「ミリアが?」


「えぇ……そうなの。ミリアと主人は想いあっていた恋人同士だったから」



 え!? 恋人同士? 



「家同士の……話です」


「伯爵様は最終的にエリー夫人と結婚なさったでしょ? なら、エリー夫人が気を病むことはないと私は思います」


「ありがとうございます、シーナ様。そんなふうに言っていただけて嬉しいです」



 エリー夫人は嬉しそうに笑い、クッキーをひとつ口に入れた。

 私は、紅茶が入っているカップを持ち上げ冷め切ったそれを飲んだ。





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