第1話 異世界に転生!?


 ***


「─︎─︎シーナ? どうかしましたか?」



 起きると私はドレスを着て目の前には美味しそうな朝食を食べていた。



「いえ、なんでもありません……」


「そう? ならいいのだけど」



 というか、あなたは誰……? 隣の男性も誰か分からないし、私の隣に座る美少女も誰なのか分からないんだけど。



「シーナ、そろそろお稽古を始めましょうよ。あなたも公爵家の令嬢になったんだから礼儀作法もしっかり学んで欲しいわ」



 公爵家の令嬢? 私が……? これは夢の中?

 混乱しながらも、無難の言葉で返す。



「は、はい……そうですね。そうします」


「えっ!? 本当に?」


「はい、ちゃんと学びます」



 誰なのか分からないけど、その人はとても嬉しそうに笑うからなんだか私も嬉しくなった。



「シーナ、やっとやる気になったのか。じゃあ昼から淑女教育を頼もうか、そうだな……伯爵家のエリーに頼もうか」


「えぇ、そうですね」



2人は和やかな雰囲気の中、食事を再開させるが……私の隣に座る女性は最後まで機嫌が悪そうだった。



 部屋にメイド服を着た女性に連れられて私の部屋らしい場所に戻る。


「シーナ様、何かありましたらベルでお呼びくださいませ」


「えぇ、ありがとう」



 私は彼女にお礼を言うと何故か目を開き驚いたが、すぐに「失礼します」と言いでて行った。

 彼女が出て行くと鏡で自分を映す。全く違う自分の姿に驚愕しかない……。



「全然別人……でも、本当になんでこんな場所にいるんだろう」


「それはね、君は生まれ変わったから」



 え……? 今の声、誰?

 


「申し遅れました、ルゥといいます」



ルゥといったのは、ウサギの耳がある男の子だ。獣人という奴だろうか。確か以前読んだファンタジー小説に出てきたと思うし。



「あなたは死んだんですよ、瑠奈さん。子どもを助けようと、轢かれて死にました。そして、瑠奈さんは今、シーナ・アーロンとしてこの世界で生きている」



「シーナさん……?」


「そう、そしてこの結末はシーナは処刑だ」



 更に衝撃の事実を突き付けたルゥという男の子は、ニコニコ笑っている。処刑って……何か罪を犯して殺されるってことだよね?



「その処刑は……回避、出来ますか?」


「うむ。出来るとも出来るとも……」



 一緒に考えてくれるのか……なら安心。



「良かった!」


「まあ、それはゆくゆく考えるとしてだね。シーナ……ところで君は、周りにいる奴らの名前を知ってるかい?」


「あー……知りません自己紹介もされてないですし」


「そりゃそうだろう、君の“家族”なんだからな」



 ルゥは、やれやれとため息を吐いた。でも仕方ないよね!? 

 急に死んだと言われて、生まれ変わったら悪役令嬢で処刑されるって聞いたとこだよ? 理解しろと言われても……。



「まあ、いい。シーナ、これを見ろ」




「えっ、何これ……っ」


「お前の家族だ」


 

 さっき一緒にご飯を食べていた人たちだ。お父さんと同じ年代の金髪の男性にその隣にはブラウン色の髪と綺麗なメイクの女性、その後ろでは金色のロングヘアにカールされたドレスを着ているお人形みたいな女の子と同年代くらいのすらっとした身長の金髪男性が並び、距離感を保つように少し離れてシーナが立っている。



「この人が、君の実母。アリア・アーロン」


「こ、こんな綺麗な人が?」


「そうだよ、隣が公爵家当主である義父のオズ・アーロンで義妹のミリア・アーロン、隣が義兄であり王宮で騎士として働くルイス・アーロン」


「お母さんとオズさんは再婚したってことだよね? でも、さっきの様子だと仲良しではなかったわよ」



 ピリピリしていて、楽しい食事とは程遠い感じだった。再婚だと言っても家族になったんだし……。



「まあ、ミリアがお前のこと嫌っているし仕方ないんだけどね……シーナに最悪の運命に導いたのはミリアと共犯のルイスだからな」


「え!? そうなの?」


「ああ、そうだ。だからミリアには気をつけろ。ルイスはあまり帰ってこないが警戒はしていなくてはダメだぞ」


「そうね、わかったわ」



 そういえば、違う言葉のはずなのに読めるし会話できるってどういうことだろうか……。前世の私は日本語以外は外国語は話すことができなかったくらいだし。



「言葉は、元々シーナが持っていたものだから会話も成り立つんだよ」


「へー……」


「また来る、淑女教育とやらを頑張りたまえ……では」



 ルゥは、ボンっと消えていなくなり誰の気配もない。でも、また来ると言っていたし……今はシーナとして慣れて淑女教育を頑張るのみ!



 

 昼食を食べ終わり、一時間ほど経った頃にお義父様がお招きした伯爵夫人・エリーさんがやってきた。



「エリーでございます、シーナお嬢様」


「シーナです。ごきげんよう、エリー夫人。この度はよろしくお願いいたします」



 そう言ってドレスを摘み膝を折る。こんな感じかしら……違うのかな。以前見た映画でこんな感じだったはず。



「あら、挨拶はちゃんと出来るのね」


「お勉強しましたの。教えてもらうのですもの、勉強は必要でしょう?」



 正確には、ルゥに教えてもらった。最低限度のことだから、と……。



「そうね、じゃあ始めましょうか……今日は、刺繍をやってみましょうか」



 刺繍か……現実世界、前世では趣味でやったことあるけどできるかしら。できなかったら怖いけど、やるしかないわよね。



「はい、エリー夫人。私、食事マナーも学びたいと思っています……自信がないので、お願いできますでしょうか」


「ええ、刺繍が終わったら食事のマナーについても学びましょうか」


「ありがとうございますっ」



 前世では、テーブルマナーは講座を受けたくらいで完璧とは程遠いと思うし次にルゥが来るまでにマナーくらいは出来ていたい。それに教養だって身につけたい……それに、ミリアとも仲良くしたいし。



「お嬢様? 大丈夫ですか?」


「ご、ごめんなさいっ……考え事をしていました」



 いけないいけない、時間は無限ではないんだから1分1秒大切にしなくては……。





 ***


「シーナ様、お上手です! 始めたところなのにこんなに綺麗に」


「本当ですか? ありがとうございます。でもエリー夫人? それまだ花ですよ」



 刺繍を初めて一時間ほど。

 彼女に指示された通り下絵を刺繍したのだ。我ながら上手く出来たかもしれない……シーナは器用だったんだろうか。



「謙遜しなくてもいいのよ? とても上手だわ」



 エリー夫人が刺繍を絶賛していると、扉のノックオンがした。シーナ付きの侍女がカートでお茶とお菓子を持ってきた。



「ありがとう」


「いえ、これが私の仕事ですから……」



 侍女が深々とお辞儀をして部屋から退出するとエリー夫人は「あなた、噂とは全く違うのね」と言い、一口紅茶を飲んだ。噂って何?

 悪い噂でもあるの? 妹に嫌われているだけじゃなく?



「えーっと……悪い噂ですの?」


「ええ、お茶会では……でもそんなの嘘だとはっきり分かりましたわ! 噂では、礼儀作法がなってなくわがままだと聞いておりました。ですが、シーナ様はお優しいですし、勉強熱心な方なんだと刺繍を見て分かりました」


「無知なせいでそう見られてしまったのかもしれませんね」


「シーナ様はスタートが少し遅かったというだけです。今から頑張れば誰にも負けない素敵なレディーになれますわ! 私がサポートします」


 

 エリー夫人には、気に入られたってことでいいのかな。こうやって味方を増やして、真面目に学んでいけばきっと未来は変わると信じよう。



「─︎─︎シーナ、エリー夫人はどうだったかな?」


「はい、刺繍を教えて頂きました。とても優しく教えてくださって」



 お茶をして、エリー夫人の刺繍の作品も見せてもらってから食事マナーも少しだけだが教わった。



「そうか、エリー夫人もシーナのこと気に入ったと言っていたよ。明日も来てくださるそうだよ」


「本当ですか? 嬉しいです……ありがとうございますお父様」


「ああ、シーナのためだ。なんてことないよ」



 そう言ってオズはニコッと笑った。この人笑うんだ……。朝も昼も、無表情だったし笑わない人だと思ってた。



「お、お父様っ! わ、私も……刺繍が上手くなったんですよ!」


「ミリア、そうだね。先生も褒めていたよ、だけどお勉強の方は怠っているようじゃないか」


「えっ」


「テスト、見せてもらったよ。なかなか理解できてないようだね、しっかり勉強しなさい……女もこれからはしっかりと教養は身につけたほうがいい」



 オズさん分かってる!

 そうだよ、教養大事。どの世界でも教養は身につけないと腐ってしまう……ただニコニコしているだけなんて嫌だもの。だけどこの考えが前世で彼に振られた理由かもしれないけれど。



「シーナも頑張るんだよ、期待している」


「ありがとうございます、お父様」



 オズさんは「俺は仕事があるから先に失礼するよ」と言って出ていった。残されたのはミリアとアリアと私……気まづい雰囲気に息が詰まる。

 どうすることもできず、料理を黙々と食べると部屋へと帰った。



 部屋に戻ると侍女がいて入浴準備をしていた。


「おかえりなさいませ、シーナ様」


「ええ、ありがとう……入らせて貰うわ」



 侍女は「かしこまりました」と言うと私を浴室に促す。浴室に入ると隅から隅まで体を洗われ、アロママッサージと共にアロマの匂いに癒されながらバスタイムを楽しむ。

 公爵令嬢ってこんなに贅沢な生活が出来るんだ……こりゃワガママにもなるのかも。



「ありがとう、気持ちよかったわ」


「い、いえっ」


 

 私は浴槽から出て寝衣に着替え髪を乾かして貰うとすぐに出ていった。早いな……侍女にも相当な嫌われようだな。



「ふうー……でもなんだか疲れたな」


「うん、お疲れシーナ」


「ありがと……ええ!? ル、ルゥか……」


「おばけじゃないんだけど! まあ、今日一日頑張ったな……エリー夫人を味方につけた、ミリアには嫌われてるみたいだけど」



 ミリアのことは……ゆっくり探っていこうとは思う。



「でもなぜこんなにも私と母は嫌われているの? 何かしたのかしら?」


「それは、君の母・アリアが庶民で遊女だったからだ」



 遊女って……あの? でもあんなに綺麗な人だもの……納得できるかも。煌びやかな世界にいるオーラが出ていたし、ご飯を食べているだけでも色気が感じられた。


「アリアの容姿を受け継ぎ、お前が美人だから妬んでいるのだろうな」


「そんなことで嫌われてるの、私……」



 もっと理由があると思ったんだけど違うのか。

 初対面でいじめられたーとかそういうのを想像していたんだけど。



「女の妬みって怖いからね」


「……ルゥってさ、何者なの?」


「ん? 秘密だよ」



 そう言うとルゥは急に消えた。



「また消えた……もう」



 私はため息を吐きながら、ベッドに倒れ込む。

 あーあ……これ、夢だったりして。


 寝たら、夢でしたってことないよね……?






『私は嫌よ、そんな自由のないとこなんて!』


『だけど、シーナ。お前をぜひにと言ってくださってるんだよ』


『それにっ! ……隠し子なんでしょう?』



 オズさんと、私? それに、隠し子って……誰のこと?



『王室に嫁げるんだ、そんないいことないだろ?』


『嫌っ!!』



ヒステリックに叫ぶシーナは、オズとの会話中外へでて行った。



『……王室の頼みだ、実の娘に行かせるのは嫌だがミリアを嫁がせよう』



 オズは、そう呟き……部屋を出て行った。

 シーナは王族の方との縁談を断ったってこと……? それは不味いんじゃないか、と思う。


 どうして嫌なのかしら……あんなに拒むだなんて。



『……なぜっ? 何故なの? お父様、私……第6皇子となんて、結婚嫌だわ!』



 メアリは泣き叫ぶが、オズは「王室には逆らえん」と言うと彼女の肩をトンと叩いた。

 その後、盛大な結婚式が行われ……メアリは籠の鳥となる。



『なんで……こんな、こんな目に遭うの!? あのシーナのせい!!』



 そして、彼女は第六王子に言った。

 “シーナ・アーロンを殺して欲しい”と─︎─︎……。




 










 




 














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