第17話 新種の魔族のようなもの。
「ぱぱ、ぱーぱ」
「……ん?」
俺は娘、デリラちゃんの声で朝を迎えた。
俺のお腹の上に座って、俺の顔を覗き込んでる。
うん。
今朝も可愛いね。
「おはよう。デリラちゃん」
「ぱぱ、おはよー」
俺は身体を起して、デリラちゃんの両脇に手を入れてひょいと持ち上げる。
横を見ると、ナタリアはもういなかった。
ほんと、働き者だよな。
さぁ、今日はやることが沢山ある。
まずは朝食。
ナタリアの作るごはんは本当に美味いからな。
俺はデリラちゃんと並んで顔を洗う。
冬が迫っているから水も冷たい。
俺の真似をして顔を洗いたいようだけど、デリラちゃんはまだ届かないんだよな。
俺が抱えあげると、彼女はにまっと笑う。
両手でたらいに溜めた水をそっと触る。
指先が触れた瞬間、手を引っ込めてしまう。
「つめたいー」
「うん。でも、顔洗わないとね、ごはん食べられないから」
「うんー」
ぴちゃり、ぴちゃりと小さな手に水を取って、丁寧に洗うんだよな。
ちっちゃくても女の子ってことなんだろう。
綺麗好きな子は、ぱぱ大好きだぞ。
「ぱぱー」
「ほいほい」
優しく顔を拭ってあげると、倍の笑顔で応えてくれる。
この笑顔のためなら、ぱぱ、誰にも負けないと思うよ。
居間に行くと、イライザさんが迎えてくれる。
「おはよー」
「デリラちゃんおはよ」
「おはようございます。ウェルさん」
「お義母さん、おはようございます」
「お母さんって呼んでくれるのね。嬉しいわ……」
「いや、その、まぁ……」
イライザさんは俺の亡くなった母とは違うタイプだ。
もちろん見た目は亡くなった母より若く感じるくらい。
それでも、家族がいるってなんかこう、嬉しいもんだね。
「あなた、おはよう」
「おはよう。ナタリアさん」
「んもう、また……」
「あははは」
家族四人で楽しい朝食。
それこそ二十年以上ぶりの家族の団らん。
絶対に手放せないものだと、改めて思ったよ。
食事が終わると、俺には向かうところがあった。
「あなたいってらっしゃい」
「ぱぱ、いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
嫁と娘に見送られて、俺が向かった先は、武器屋。
「グレインさん、相談があるんだけど」
「おう。ウェル族長じゃないか」
「……慣れないな、その名前」
「そんなのより、武器の事だろう?」
「そんなのって、まぁ、そうなんだけどさ」
俺は槍と剣を一本ずつ作ってもらうつもりだった。
「こうなっててさ、そう。この部分だけが魔石なんだ。槍も確か外側だけだと思うんだよね」
俺は以前グレインさんに打ってもらった剣を指差しながら、細かく説明していく。
そりゃ十九年も使ってたんだ。
忘れることは流石にないよ。
「なるほどなぁ。うん、できなくはないと思うけど。これ、誰に使わせるんだ?」
「あー、うん。ライラットさんやジョーランさんかな。若い人に剣と槍を教えようと思ってね」
「これ、例の人間の国にあるやつだろう?」
「わかっちゃうか。うん。あの国で『聖剣』『聖槍』って呼ばれてたものだね。この割合でほぼ同じだと思う。そうだよね?」
『えぇ。間違いないと思うわ』
「うはっ、俺も慣れないと驚くな……」
一度は会話させたとしても、慣れないもんなんだね。
材料に関しては、まだ余裕があるんだってさ。
やっぱり魔石の扱いに関しては、魔族が一枚も二枚も上手なんだそうだ。
「そうだな。明日には出来上がるかな。とりあえず、剣だけでいいんだろう?」
いいよね。
族長になったからって、以前と同じように仲間のような口ぶりで話してくれる。
「うん。あ、ライラットさんいるかな?」
「おう。ライ。出てこい」
「親父何か用……、はっ。族長さん。おはようございます」
「あははは。そんなに畏まらなくてもいいって。あのさ、ライラットさん」
「あの、ライラットと呼び捨てにして──」
「んー、柄じゃないんだよ。それより、明日の今頃、若人衆の皆をここに集めて欲しいんだ」
「わかりました。あ、それって」
「うん。女性も一緒に。誰に適性があるかわかんないからさ」
俺の前の勇者は女性だった。
おそらくは、男性女性関係なしに、マナの総量と扱うことの得手不得手があるはず。
マナの総量に関してだけ言えば、人間よりは無理をさせないで使ってもらえると思ってるんだ。
「わかりました。明日の今頃ですね」
「うん。頼むよ。あと、グレインさん」
「他にもあるのか?」
「うん。この集落の周りを囲む柵なんだけど──」
俺の説明に頷く二人。
俺は柵の強化を提案したんだ。
それは物凄く簡単なもの。
「──こういうものなんだけどさ。近くに岩山なんてある?」
「あぁ。集落の北にあるぞ」
「ならそこでいいや。ちょっと行ってくる。魔獣が来たらすぐに呼びに来てくれる?」
「はい。わかりました」
俺は集落を出ると北に向かった。
歩いてすぐの場所に切り立った岩山が見えてくる。
そのまま歩いていき、岩肌を前に立ち止まった。
「エルシー、いけると思う?」
『どうかしらね。でも、これよりは硬いはずよ』
「やってみて。かな」
俺は聖剣エルシーを持つと、いつも通りマナを込めていく。
岩山に切っ先をそのまま突き立ててみた。
思った通りだね。
ずぶずぶと岩山に刺さっていくわ。
俺の腕力も大概だけど、この聖剣エルシーも半端ないな。
そのまま一気に斬り落とす。
次に一歩位離れた場所で同じように。
上側と下側をなるべく水平に。
こうして俺は両手で抱えるくらいの四辺の石を切り出すことができたんだけど。
『ウェル。これ、どうするの?』
「いや、これをさ。鬼人族の人って、マナを使って力を込められるかもしれないじゃない?」
聖剣エルシーを背中のベルトに戻して、俺は岩の両側を持って。
おなか辺りにマナを集約するようにしてから。
えいやっと……。
俺は遊びでやったんだけど。
『…………』
「…………」
あ、これは駄目な奴だ。
『ウェル。その、ごめんなさい。やりすぎちゃったみたい……』
「あー、うん。驚いたわ」
頭の上に岩の塊を持ち上げてしまってたんだよね。
ちょっと重たい布袋でも持ってるような感じしかないんだ。
はい、化け物確定。
俺、新種の魔族みたいなものだったわ。
『ウェルの剣速ね。あれ、自力だったのね。おかしいと思ったのよ』
「いやもっと早く気づいて欲しいって。魔石の効果だと思ってた俺悪いんだけどさ。……あのさ、エルシー」
『な、なぁに?』
「『手加減』教えてくれてありがとう。ナタリアさんとデリラちゃん、怪我させるところだったわ」
『優しいウェルなら大丈夫だと思ってたわ』
俺はそのまま回れ右。
岩を持ち上げたまま、集落に戻ることにしたんだ。
あまり音を立てないように、木製の柵の外側に沿うように並べて置いていく。
石切り場(勝手にそう呼ぶことにした)に戻って、またどっこいしょ。
それを昼まで永遠と繰り返してたら、気が付いたら集落一周してて。
柵の周りで騒ぎになっていました、とさ。
重さよりも、前屈運動が腰にこたえてしまって。
伸ばしてトントンと叩いてたときだった。
「……あの、何やってんですか? ウェル族長さん」
「あ、ライラットさん。どうかした? 魔獣出たかな?」
「いえ、ナタリアさんから『お昼になったから呼んできて欲しい』と言われたんですけど……」
「そっか、ありがとう」
「いえ、いいんですけど。これ、どうしたんです?」
「あぁ、あっちの岩場から切り出してきて並べてるんだ。これをこう互い違いに置いて」
「……凄いですね。俺でも二人がかりじゃないと無理ですよ」
「やっぱりできるんだね。よかったよ。手が空いてる人いたらさ、昼後から手伝ってくれるように言ってくれるかな?」
「はい、わかりました……」
多少困惑してるようなライラットさんだったね。
やっぱりやりすぎたかな?
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