神社の私

あさひ

第1話 神社

 晴天に守られたかのような少し田舎の神社は

今日も穏やかで優しさと澄み切った空気に包まれている。

「腹が空いたな・・・・・・」

 そっと呟やく声を拾ったのは

賽銭箱前の階段でスマホをいじる少女だけだ。

「だから?」

 周りにはゲームに答えているかのような口調で

視線を向けず答えるが耳元で囁かれる。

「俺のことが嫌いか? 俺はお前しか見えないがな・・・・・・」

「そりゃ、あんただもん」

 素っ気なく答えたが普通なら病院を紹介される言葉であり

それ以前に参拝客が眉をひそめている。

「お前って不思議だな」

「何が?」

「俺を怖がらないし、普通に会話をするところがな」

「慣れた」

 頭を傾げながら去って行く参拝客に

神様と呼ばれた男はフッと笑った。

「笑っちゃダメじゃん」

「いや、信じないわりにご利益は欲しいとは・・・・・・」

「確かに現金だね」

 現状、気休めな神社の扱いはこんなものが大半で

その反応に思考を回すのは面倒なことだ。

「仕方ないな・・・・・・」

 スマホを閉じ、立ち上がると神社内の社務所へと歩いて行く。

「出来れば、羊羹がいいぞ!」

 ひらひらと手で答える少女はそのまま悩んでいた。

「どうしよ・・・・・・ 煎餅しか残ってない・・・・・・」


 数時間後たった賽銭箱前の神様は

あくびしながら横になっていた。

「消化に悪いよ? お手製の羊羹しか無理だった・・・・・・ ごめん」

「いや、むしろお前の羊羹の方が良い」

「あと余ったからきんつばも作った」

「なんと・・・・・・ 今日は大吉だな?」

 おみくじ引いてないよと手渡しする少女に

そっと微笑む。

 それに対し、顔を紅くしたのは

気づかれてない。

「きっとお前は良い奥さんになるぞ」

 羊羹を見ながら常識と言わんばかりに

言い放つ。

「なっ! ばっかじゃねえの!」

「むしろ俺がもらいたいがな」

 少し想像が過ぎったのは今と正反対だったが

妄想過ぎて自分に辟易する。

「俺はそんなにダメか?」

 黒い短髪と細マッチョで塩顔な

イケメンなアスリートという印象で少女の憧れだった。

「仕事に就いたら、ずっと側にいる」

「どんな仕事が良いんだ?」

 その問いにどう答えたら良いのかわからない

だが言葉が一つだけ浮かんだ。

「怪我しなくて給料が良いやつ・・・・・・」

 着物の隙間から覗く治りかけの傷が

目にちらつくことで

心配に掛けるのに理解がない

それが武神【天武大神あまたけのおおかみ】の無頓着さだ。

「そういえばお酒は飲むの? 肴なら作るから」

「おっ! 良いのか?」

 少年の様に目を輝かせて誤魔化しに自然体で乗っかる。

「今日、三澤さんが焼酎と冷酒用の日本酒をお供えてくれたから

しぐれ煮か・・・・・・」

 手に持つ羊羹に目をやったがもうないことを確認し

家に栗の甘露煮があったことを思い出す。

「ちょっと持ってくるから待ってて」

「気が利くのはいいが・・・・・・ なにゆえ悲しそうなんだろうか?」

 むぅと顎に手を当て熟考しだしたが

理由が全く見当つかない。



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 神社の私 あさひ @osakabehime

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