第14話 禁忌の地にて
バズ・デール市を後にした私達は一路、禁忌の地へ足を踏み入れた。
かつて、旧人類が栄華を誇った場所。
今は見る影も無く荒廃し、立ち並ぶ高層建築物はあるものは崩れ去り、またあるものは植物に覆われて、全て等しく生態系に支配されている。
人の気配は無く、ただ圧倒的な自然の力に呑み込まれている事が確認出来るのみだ。
だが、ここには旧人類の遺した科学の残骸が眠っている。
その為、私達は『すでに発掘され尽くした』とされるルートを選び、目的の場所『ケイブ・セクター07』を目指す。
『ケイブ』とは、旧人類、特にWARESが建造した地下施設の事だ。
私の目覚めた場所も『ケイブ・セクター06』であった。
それはさておき、寂れたルートを通る故に人目は避けられるが、絶対では無い。いかに禁忌の地が[人]の活動領域では無いとはいえ、人目に付かない保証は何処にも無い。
それ故、今はまだ、ワールウィンドⅢの試製86式噴射システムを使わずに主脚歩行で歩を進めている。
途中、
だが、彼奴等はLEVに対しては何一つ反応を示さない。
『WARES』が製造した新型鋼魔獣は、LEVが発している味方識別信号で攻撃対象であるかを判断している。
その為、LEVに乗る私にとって、新型鋼魔獣はなんら脅威にはならないのだ。これも人目を避ける理由の一つだ。
むしろ、この場所では、野生の魔獣の方が注意すべき存在である。
新型鋼魔獣はデータリンクで支配下に置く事も可能だ。だが、野性の魔獣は元は生体兵器であり、今は生身の生き物だ。
そのような縛りは無く、縄張りに入ったら、見境無く襲い掛かる種類もいる。
今はまだそのような魔獣には遭遇していないが、突発的に遭遇戦となる事も十分にあり得る事だ。
用心に越した事はない。
*
随分と奥へと侵入出来た。ここまで来ればもう人目を気にする必要もないだろう。
それでも尚、先程遭遇した3台の
何故そこまでしているかと言うと、私は今、LEVから降り、水辺でブレイズリアクターに水を補給している真っ最中だからだ。
ブレイズリアクターとは、ブレイズという燃料を製造する為の装置の事だ。
ブレイズは水から精製される液体燃料で、とても燃えやすく、衝撃を受けると爆発する危険性がある。
第3期LEVの推進剤や旧式鋼魔獣のエネルギーとして使われていた代物だ。
ワールウィンドⅢの試製86式噴射システムはブレイズを燃料としたジェット推進である為、水の補給は必要不可欠なのだ。
その為、ワールウィンドⅢと
後数分でリアクターのタンクが満杯になる。そうすれば試製86式噴射システムを使って、一気に移動するつもりだ。
『タカティン、大丈夫なのです?
危険は無いのです?』
「周囲を警戒させているから大丈夫だ。何かあればすぐに判る。」
『リヴルは心配なのです。気をつけるのですよ。』
「ああ、判っているよ。」
心配しても始まらないが、警戒だけは十分行っている。
数分後、無事に給水を終え、ワールウィンドⅢのコクピットに戻ってリヴルの背表紙をそっと撫でた。
「戻ったぞ。」
「おかえりなのです。」
「では出発だ。ここからは噴射システムを使って一気に行くぞ。」
「了解なのです。いつでもオッケーなのですよ。」
「ワールウィンドⅢ、試製86式噴射システムのリミッター解除。出力90%、リミット600秒。」
『Yes、countdown、5、4、3、2、1、ignition』
噴射システムが唸りを上げ、轟音とともに蒼炎を吹き出し、ワールウィンドⅢが勢いよく斜め上方へ跳び上る。
三十数m上昇したところで水平飛行へ移行、樹々や高層建築物の群が猛烈な勢いで後方へ流れて行く。
この飛行速度ならば、目的地の近くまでは10分。このまま一気に突き進む。
「タカティン、海なのです、海が見えるのですよ。」
リヴルが興奮気味に声を上げる。今はまだ遠くだが、少しづつ青く光る海岸線が近づいている。
目的地がもう目と鼻の先にある。
ソワソワとした高揚感、ザワザワとした焦燥感、そんなものが感じられる。
時速600kmで飛行しているはずなのに、とてつもなく、途方もなく、長く、永く、時間が引き延ばされたような感覚。
近づいているはずなのに、遠ざかっているような不安。
「タカティン、広いのです、大きいのですよ。綺麗な海なのですよ。」
その声にグッと現実へと引き戻されたような感覚を覚えた。
いつのまにか目的地である『ケイブ・セクター07』の存在する、WARES軍事基地跡上空へと達していた。
「降下する。空中散歩はここまでだ。」
「わかったのですよ。」
ゆっくりと高度を下げ、滑走路へ着陸する。
ソキウスから入手した基地のマップを頼りに『ケイブ』への入口へと歩き出す。
この先に何が待ち受けるのか。
はたまた、望むモノが存在するのか。
期待と不安、綯交ぜになった感情が胸で渦巻くのを感じていた。
度し難い。
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