第2話Looking for(捜し物)
「ありがとうございました」
店員のはきはきとした声に見送られ、俺は店を出る。
あの店員は高校生で、ラケットスポーツの経験者だろう。
右腕の前腕が異常に発達していることから、ラケット種目のスポーツであることは
さらに小麦色の肌が俺の推測を後押しする。
おおよそテニス部だろう。
無意味な推理をするのが俺の癖だ。
学校にいる時はいつも1人で、寝るか人間観察して過ごしている。
これまで、1人=ボッチという考えを強く、それはもう強く否定していたわけだが、今この瞬間認めよう。
俺はボッチだった。
だが今は1人ではない、よって決してボッチなどという存在ではないのだ。
結局のところボッチである存在は
俺は店員の推測と、ボッチから解放されたことの喜びで舞い上がりながら隣町のデパートへ向かっていた。
隣町に最近デパートができた。聞くとそこには有名なブランドやオシャレなグッズが沢山あるらしい。
湧き出して、心から溢れ出るほどの好奇心。
わくわくが止まらない。
良き買い物となることを神に祈っていた。
想像を遥かに超える大きさに、目を疑った。いや目だけではない。なんなら
とりあえず見取り図で、行きたい場所を確認しよう。
ここで焦ってはやつの思うつぼだ。
冷静になれ、俺よ。
目的地は7階であることがわかった。
え?やつの思うつぼって、一体誰のことか、だって?
そりゃあもちろんこのデパートそのものである。
このドの2乗とでもいうべきド田舎に、こんな大型商業施設があっただろうか?
こんな7階まであるような建築物は?
いやない。断じてNOである。
いったいこのデパートはどれだけこの俺を興奮させれば気が済むのだろうか。まったく。
そんなことを考えいるうちに7階に到着した。
目的地はすぐ目の前。
探検もとい情報収集のためにあちこち回りたいが、この後部活があるため長居はできない。
悔しいが大人しく買い物するほかない。
色んな雑貨が売っている店だが、今どきの高校生は何を買うのだろうか。
俺はしばらく考えたがよくわからなかった。
お前も高校生だろうが。だって?
残念、俺は流行には
ファッションはそこそこ手を出すが、流行りではなく気に入ったものを買う。
まぁ要するに今どきの高校生とは違うのだ。
このままでは
ならば、と思い俺は今どきの高校生に電話をすることにした。
『もしもし、どうしたんだ? 急に』
友人の大原 弦が低い声で言った。こいつは電話になると異常に低い音になるのだ。
周りに他の人間の話し声や雑音が多い。きっとこれから部活なのだろう。
「あー悪い。ちょいと今買い物に来ているんだが、何を買おうか悩んでて」
俺は考えながら言った。
『拓真が買い物なんて珍しいな。明日は
「あぁそうだ。明日の天気予報は槍だ。それで、今どきの高校生は何を貰ったら嬉しいんだ? 」
弦のボケを受け流しながら単刀直入に聞くと、
「それは人によるだろ。俺は好きなものを貰えたらうれしい」
新幹線並みの速さで即答してきた。
「案外普通の意見だな。俺はもっと具体的かつ的確なアドバイスを期待したのだが……どうやら人選ミスをしたらしい」
と、冗談混じりで言うと、
「声に出てるぞ」
強めのツッコミが飛んでくる。
弦はもう1人の幼なじみのツッコミ役と言ったところだ。
「おっと失敬。このあと部活なんだろう?」
『そうだ。よくわかったな』
「まぁ、とりあえずあんがとな」
『おう、じゃあまたな』
通話はそこで切れた。
具体的かつ的確なアドバイスは手に入らなかったが、それでも道しるべは見えた。
よくやった弦よ。褒めてつかわす。
俺は店をゆっくりと周った。
たっぷりと考えた末に、ついに買う商品を見つけた。
それはグレーの猫が描かれた、ペアマグカップ。
(裕翔、喜ぶだろうか……)
「ありがとうございました」
店員が爽やかな声で俺を見送り、俺は店を出た。
今の気持ちは形容し難い。
これが幸せなのだろうか?
こんな風に他人のことを考えてする買い物なんて初めてだ。
紙袋をぎゅっと抱きしめてみた。
すると、彼の姿が目に浮かんだ。
気に入って貰えますように。
「お客様! お釣りを忘れていますよ!」
店員がエレベーターに乗ろうとした俺を呼び止めた。
おっと。やれやれ、油断するとついこれだ。
まったくこのデパートは……
俺はこのデパートには二度と来ないと心に決めたのだった。
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