I, My Readers, and ...?

砂塔ろうか

For Dearest ...

 はじめにこれだけは記しておかなくてはなるまい。


 貴殿がこれを読んでいるとき、私はもの言わぬ骸となっていることだろう。



 ——過去のネットアーカイブをサーフしていた時のことである。私はたまたま日本の小説投稿サイトのコンテストを見つけた。どうやら指定された期間内に指定されたお題に沿った小説やエッセイを書いて投稿するイベントらしい。

 私は暇潰しがてら、そのコンテストの参加者になったつもりで小説を書いてみることにした。


 ……もしかしたら、「アメリカ人なのに日本語の小説が書けるのか?」と疑問に思う人もいるかもしれないので念のためにことわっておこう。現在、この世界はバベルの塔によって神の御許に到達したものと、そうでないものに二分されている。バベルの塔建築は神の赦しである。

 人類への恩赦として、神はヒトにかつての栄光ある共栄を返還した。統一言語の復活である。

 よって、私たちから言語の壁は取り払われた。


 話を戻そう。

 そのサイトのコンテストに挑戦していた私は、6つ目のお題でつまづいた。


「私と読者と仲間たち」


 私について語るのはやぶさかでない。読者についても、まあ。きっと、ネットの海に放流しておけば誰かが読んでくれることだろう。とりあえずここでは「あなた」としておく。

 だが、仲間について私は語る言葉を持たない。


 あの統一言語の返還により、私は彼らを表現する方法の一切を喪失したのだ。


 この地上には統一言語返還——すなわち神の恩赦から除外された地が三つある。一つは南極、一つは海底神殿ルルイエ、そして最後が米国はロズウェル事件で知られる——エリア51である。


 私の仲間たちは、この3つのいずれかにあの時いたらしく、たしかにいたはずの彼らについて、私は語ることができない。

 だが、それは無性に悔しいことだった。

 ゆえに私はガレージからバイクを引っ張り出して来てエリア51へと向かった。脊椎直結型ネットワーク端末の調子は良好だ。衛星からの情報を参照しつつ、私は最適なルートでエリア51へ。


 結論から言おう。

 エリア51はヒトの住む土地ではなかった。珪素生命体のコロニーがそこには形成されていた。彼らの一部は恒温生物の腹に卵を産みつけるというハリウッド映画みたいな生態をしているようで、腹がやけに膨らんだ猫やウシがそこらをうろついてた。

 ヒトを見ずに済んだのは、幸運だった。


 残るは南極と狂気に満ちた海底神殿である。


 続いて私が向かったのは南極だ。

 どうにかこうにか、あちこちの伝手を辿って南極調査船団に乗り込むことができた。神の恩寵に満たされ、すべてが等価になりつつある世界で依然、個我を強固に維持してる人材は貴重とのことで、彼らは私を快く受け入れてくれた。


 ただ、ネットワークの海を泳いで、多様性に満ちてたころの世界に閉じ込もっていただけなのに、と少し後ろ暗い気持ちが湧き上がったことを記しておく。


 船旅を続けること少し、我々は南極に到達した。


 神の恩寵から外れた南極は、空中に浮遊していた。浮遊大陸南極になっていた。空飛ぶペンギンたちと個我の強い罰当たりな人類の住処。それが現在の南極である。

 ——南極のど真ん中に巨大なキリスト像が建ってるのを見たときは、苦笑するほかなかった。


 さて、その南極でも私は仲間たちを見つけることはできなかった。

 というわけで次は海底神殿へ向かう。だが、かの土地は神から見放された土地ではない。邪神の領地テリトリーだ。この私にも何が起こるか分からない。ネットワークには……接続できないだろう。


 よって、このエッセイはここまでということにする。これより先、続きは、私がルルイエから帰ってきたときに書くつもりだが……先述のとおり、おそらくこの文書が私の最期の…………。


 まあ、動機が動機だ。本当は、私が死にに行くことなんかない。私もバベルの塔を上り、エデンの園へ迎え入れられるべきなのかもしれない。

 だが、私はきっと、嫌だったのだ。彼らのことを、仲間のことを語れぬまま永遠の幸福を手にしてしまうのが。ああ、そのためなら死んでもいいと思えるくらいに。


 最後に、祈りを一つ。


 どうか、読者あなたには信じてほしい。私が仲間と語らう過去が、私が仲間について語る言葉を神から取り戻した事象が、たしかにこの世界のどこかであったのだと。


(了)

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