第37話 始まり

「今の話が私の過去よ。納得できた?」


一時間ほどかかっただろうか、外を見るとすでに日は暮れ、学校に残っているのは部活をやっている生徒のみという状況になっていた。


「はい、いろいろと腑に落ちました」


由依がなぜ自分にこれほど興味を持ったのか、これほどの才を持った由依がなぜこの学校に入学したのか、疑問に思っていた部分が全て解消された。

 そして詳しい由依の過去。親友が亡くなったということだけは聞かされていたが、ここまで壮絶な物だとは正直思っていなかった。


「大変、だったんですね」


 大変という二文字で済まされる話ではないことを彩人は理解している。けれどそう返すことしか、今の彩人にはできない。


「……そうね。正直、かなり参ってたわ。今でも夢に見るぐらいだもの」


 そう言った由依の顔は笑ってこそいたが、どこか哀愁を含んでいた。

 乗り越えたとは言ったものの、まだ二年ほどしか経っていないのだ。傷が癒えるにはまだまだ時間がかかる。


「でももう、大丈夫。桜のおかげで私は今ここにいられる。だから、手に届く範囲の人は助けるって、そう決めたの」


 ああ、この人は本当に強いな。彩人は改めてそう思った。この人には敵わない。どんなに頑張っても一生追いつくことはできないと、身をもって実感する。


「だからあなたのこと気にかけたのも、結局は自分のためなのよ。まあ、感謝はして欲しいけれど」


 照れ隠しか、由依はそう言って誤魔化した。


「それにしても、駅で先輩に声をかけた奴はとんだ礼儀知らずですね」


自殺を止めようとはせず違う方法を提案するなんて、どんな鬼畜野郎だろうか。


「二年後に再会しても、礼儀知らずのままだったけれどね」


その由依の言葉に、彩人はバツの悪い顔をする。


「覚えてないの?」

「……全く覚えてないですね」

「この私を忘れるなんて、いい度胸してるわね」

「それに関しては本当に申し訳ないです」

「ま、あなたも大変な時期だったものね。しょうがないから許してあげる」

「ありがとうございます」


 由依の寛大な対応に感謝しつつ、このままだとより立場がなくなると思い彩人は話題を変えた。


「そういえば先輩、昔と今でだいぶキャラ違いますよね」


話を聞いていると、昔の由依と今の由依では正直似ても似つかない。

 昔の由依は卑屈で自分に自信がなく、周りとの付き合いもうまくできないようだった。しかし今はほとんど真逆。別人レベルに変化している。

あからさまな話題転換に由依は一瞬不服そうな顔をするが、しっかりと答えてくれるらしい。


「……変わらなきゃって思ったの。いつまでも暗くて協調性がないままじゃ、きっと同じことを繰り返すって、そう感じたわ」

「でも、すごいですよね」

「え?」

「変わろうとして変われる人なんて、ほんのひと握りだと僕は思ってます。すごい努力が必要だろうし。でも先輩は諦めずに本当に変わった。なかなかできることじゃないですよ」


実際に今の由依は学校で悪い意味ではなくいい意味で目立っている。近寄り難い雰囲気こそ出しているものの、誰とでも分け隔てなく接し、由依のことを慕う者も多いと聞く。


「誰も褒めてないと思うので僕が褒めます。先輩は頑張りました。並大抵の努力じゃできないことをやり遂げました。まじですごいと思います」

「……偉そうな口を聞くわね。生意気よ」

「礼儀知らずなもので」


彩人がそう言うと、由依は諦めたように少し照れながら破顔した。


「ほんと生意気。でも、面と向かって言われると照れるけれど……ありがとう」


その笑顔は、今まで見てきた由依の笑顔の中で一番綺麗で美しく、どこか愛らしさも含み、まさに由依にしかできないものだった。


「それで、この部活に入りたくなった?」


 最初は無理矢理だったはずの勧誘が、いつの間にか立場が逆転している。

 けれど由依が自分のためにしてくれたことの恩は返さなくてはならない。

 いや、それだけじゃないな。彩人はそう思った。

 ただ単に自分が由依と一緒にいたいのだ。由依の隣で過ごし、二人で相談に乗って悩みを解決する手助けをする。

 それが結果的に由依に恩を返すことになる。

 そして恩を返し終えることができたその時は——。


「はい。入部させてください」


 彩人は由依にそう伝え、入部届を差し出した。


「何もかも先輩のおかげです。先輩が僕を救ってくれたんです」

「告白でもする気?」

「していいんですか?」

「……まだダメよ」

「まだ?」

「っ、なんでもない!」


 由依は仕切り直しの咳払いをし、彩人の追撃を許さなかった。


「礼儀知らずのくせに部活には入りたいのね」

「礼儀知らずですけど恩知らずじゃないので」

「ほんと口が減らないわね……」


 由依はそう言って彩人を睨むが、ふっと口元を緩めその紙を受け取った。


「ま、いいわ。ようこそ相談部へ。改めてよろしくお願いするわ、倉木彩人くん」

「はい、よろしくお願いします、羽沢先輩」


 きっとこの先も多くの壁があるだろう。今までの彩人なら乗り越えられないようなものもたくさんあるはずだ。

 けれど由依と一緒なら難なく乗り越えられる。そんな気がしていた。





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お久しぶりです結城です。

これにて第一章完です。

え?タイトル詐欺にも程があるだろって?僕もそう思います。『倉木くんは相談に乗る。』とか付けたくせに相談に乗るまでに11万字使うとかアホなんですかね。

第二章は構想はありますしできたら書きたいなって思っているんですが、なんせ時間が取れないのとちょっと違う小説も書きたいなとか思ってるのもあって実現するかは分かりません。書きたいなとは思ってます(二度目)

違う小説の構想もあります。そっちはなんも考えずに読めるラブコメにしたいなあとか思ってます。一人称にも挑戦してみたい。

まあそんなこんなで一旦区切りです。またお会いしましょう!

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