第18話 答え
金曜日の放課後、彩人は由依に自分が出した答えを伝えるべく、相談部の部室に来ていた。
「それで、答えは見つかった?」
「はい」
「じゃあ、聞かせて」
彩人は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。これを口に出すということは、それ相応の責任が伴う。覚悟を決めて、はっきりとこう言った。
「僕は、和希に会いたいです」
「一応、理由を聞いてもいいかしら」
「……先輩に逃げているだけ、と言われた時に、自分の心が見透かされた気がしました。薄々気づいてはいたんです。ただ、それを認めるのが怖くて」
由依は黙って聞いてくれている。
「でも、先輩にそう言われて、逃げているだけじゃどうにもならない、何も変わらないって思うようになりました」
彩人は続ける。
「正直、和希が僕のことどう思っているかはわからないし、怖いという部分は変わりません。でも僕が、和希に会いたいんです」
由依の目を見て、彩人は力強くそう言った。
その彩人の言葉を聞き、由依は満足そうな笑みを浮かべ、
「そう」
と言った。
すると急に立ち上がり、彩人にこう言った。
「じゃあ、行くわよ」
あまりにも急な展開に、彩人は置いていかれそうになる。
「え、どこに?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりの顔で由依はこう言った。
「あなたの親友のところよ」
「え?え?」
「もう新幹線のチケットも取ってあるから」
「さすが先輩……って違う違う、なんで取ってあるんですか」
「この状況でノリツッコミできるとは、あなたもなかなか肝が座っているのね。ちなみにチケットはこうなることを見越して取っておいたの」
「僕が会いたくないって答えを出す可能性もあったじゃないですか」
「その時は無理矢理連れていく予定だったわ」
思わず彩人はため息をつく。さすが羽沢由依と言うべきか、手の回し用が半端じゃない。そして相変わらず女王様だ。
「でもどうやって和希の家を?」
「ああ、それはね……」
由依によると、どうやら弓道部の一年生が教えてくれたらしい。
由依が和希の家を探すために一人で動いていると、凛から『弓道部にあいつの後輩がいます』と教えてもらい、話を聞いていくとどうやらその子の親と和希の親が非常に仲が良く、家族同士で交流があったとか。
その子は広瀬葵といい、可愛らしい容姿からは想像もできない力強い射をしたのでかなり印象に残っており、彩人も覚えていた。その双葉から現在の和希の様子やどこに引っ越してどこに住んでいるかなどを聞き出し、今に至る。
「僕の知らないところでそんなに動いてくれていたんですね。ありがとうございます」
その話を聞いて、由依に対して感謝の気持ちがまず最初に浮かんだ。うじうじしていた後輩のためにここまで動いてくれていたのだ。感謝しないはずがない。
「そう言うのは全部解決してから。ほら、行くわよ」
「はい」
学校を出た二人は、新幹線に乗るために東京駅へと向かった。
現在の時刻は午後四時半。新幹線は午後六時発の列車で、学校からは一時間ほどで東京駅に着くので比較的余裕はある。
「ところで、和希の家はどこにあるんですか?」
詳細は何も聞かされていなかったので、彩人は電車で向かう途中で由依に聞いた。
「仙台よ」
「これまた、遠いですね」
「そうね」
東京駅から仙台駅まで新幹線で約二時間だ。あのメチャメチャに早い新幹線でも二時間かかるのだ。近いですね、なんて冗談を言えるような距離ではない。
「泊まるところとかはどうするんですか?」
この時間から向かうのだ。夜遅くに訪ねても失礼だろうし、一泊するのは間違いない。
「もう押さえてあるわ。普通のビジネスホテルでシングル二部屋よ」
「さすがとしか言いようがないですね……」
用意周到すぎて逆に怖いという感想を持つのは彩人だけであろうか。先回りしてここまで準備する人はなかなかいないだろう。
「私は予約した時に親の同意はもらえているけれど、電話で親に同意を求めるタイプのホテルだからチェックインの時お願いね」
「あ、はい」
未成年ということを偽って泊まろうとしないところにも由依らしさを感じる。状況によっては柔軟な判断をするだろうが、あえてリスクは犯さないのだろう。
ただここで、彩人はあることに気づいた。
「僕、何もしてなくないですか?」
和希の居場所やら新幹線のチケットやらホテルの予約やら、全部由依に任せっぱなしで彩人は本当に何もしていない。
「いいのよ。好きでやってるんだから」
由依は続ける。
「それに、あなたにはこれから大事な用事があるんだから。そっちに集中してればいいのよ」
由依は受験生であるため自分の勉強もある。それにも関わらず、こうして彩人に対して世話してくれているのだ。
「先輩……」
「な、なによ」
「全部終わったら、この身を先輩に捧げます」
「いらない」
「えーもらってくださいよ」
「メリットがないもの」
「……確かに」
今の彩人にはなに一つとして由依の役に立てることはない。由依のそばにいてもなにも意味がないことに自分で納得してしまう。
「でも先輩、勉強とか、大丈夫なんですか?」
彩人がそう言うと由依は「はあ」と露骨にため息をつき、彩人を睨んできた。
「誰に向かって物を言ってるの?私羽沢由依よ」
それは誇張でもなんでもなく、それが当たり前であるかのように納得させられてしまう言い方であった。
「……愚問でした」
「わかればいいのよ」
たかが後輩に時間を割かれようとも、自分の受験には全く影響しないのであろう。
そうこう話しているうちに、二人は東京駅へと着いた。新幹線のホームへと向かい、途中、車内で食べる駅弁を購入することにした。
「駅弁好きなんですよね」
ずらっと並んだ駅弁を物色してる最中、彩人がそんなことを言った。
「そ、そうなのね」
なぜか由依が、少し動揺した様子でそう口にした。
「……もしかして先輩」
「違う!なんでもない!駅弁美味しいわよね!」
その反応が墓穴を掘っていることに気づかないのだろうか。その頭脳を持ってしてこの状況を客観的に見ることができないのを彩人は不思議に思う。
だがその綻びを見逃さない彩人は、
「そんな慌てなくて大丈夫ですよ先輩。僕は先輩がそのことを知っている事実でご飯三杯はいけますから」
などと口にする。
当然由依は、
「この変態!馬鹿!」
と顔を真っ赤にしながら彩人を罵るが、彩人は痛くも痒くもない。この顔が見られるならむしろご褒美である。あの顔が見られなくともご褒美なのだが。
「その顔、すげえ可愛いですよ」
「調子に乗るな!」
「いった!」
由依がローファーの踵に全体重を乗せて踏んだため、彩人は馬鹿でかい声で叫んでしまった。
周りの客に白い目となにやら温かい目を向けられつつ、彩人たちはその場を離れた。
——————————————————
題名誤字っていたことに18話投稿してきて初めて気づきました。軽く死にたいです。
話は変わりますが、応援やお気に入りが目に見える形で届くと嬉しいですね。今後ももらえるよう頑張っていきたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます