第8話 デート①
土曜日、家事と課題をこなし翌日の服装に頭を悩ませいていたら、あっという間に一日が過ぎ、日曜日がやってきた。
その日は雲ひとつない快晴でまさにお出かけ日和だった。
昨日決めた服に着替え、寝癖を直して髪をセットし、トートバッグを持って家を出る。
心配性であるため、荷造りをするときにあれもこれもとなってしまい、結果的に荷物が重くなるのはいつものことだ。持っていった荷物のうち半分以上は使われないまま帰還する。
玄関のドアを閉め歩き出すと、家の目の前で知った顔に出会った。
「あれ、彩人くん?」
「雨音?」
そこにいたのは彩人の隣の席の薫であった。家が近いとこういうことが起きるらしい。これからもこういうことが起きるのだと考えると、少し憂鬱になる。
「なんとなく君に会えると思ってたんだけど、まさか本当に会えるとはね」
「お前は僕のストーカーか何かか?」
「あははー冗談だよ。これから友達と遊ぶの」
「また仮面被るのか」
「嫌な言い方するねー。君はそんなお洒落してどこ行くの?」
「デート」
「君が?」
「僕が」
「誰と?」
「羽沢先輩と」
「……脅しでもしたの?」
薫が信じられないという目でこちらを見ているが、由依に誘われたと勝手に言うのも憚られるので適当に誤魔化す。
「相変わらず失礼だな。成り行きでこうなったんだよ」
「成り行きねえ……」
薫が今度は疑いの目を向けてくる。彩人はそれを無視して駅へと歩き出した。
「あ、待って私も駅向かうから」
そう言って駅まで薫と一緒に歩くことになったが、なぜだか彩人は嫌な予感がしていた。
そして、その予感は見事に的中することになる。
駅に着くと、由依が腕を組み壁に寄りかかって待っていた。
「なんていうか、女王様みたいな雰囲気出してるね」
「そこがいいんだよ」
蔑むような視線を投げる薫を無視し、由依に近づく。それに気づいた由依が顔をこちらに向けるが、彩人の隣にいた女子を見て一瞬怪訝な顔になる。
「先輩、お待たせしました」
いかにもやばそうな雰囲気を由依が出していたので、彩人は間髪を入れずに薫の紹介に移った。
「そしてこちらはクラスで隣の席の女子です。さっきそこで会いました」
当たり障りのない言い方をし、薫にバトンを渡す。
「初めまして先輩。雨音薫と言います」
「初めまして。羽沢由依よ」
「じゃあ私はこれで失礼しますね」
やばい雰囲気を察したのか、薫はそう言って改札へと歩いて行った。
なんとか乗り切ったと思い安堵していた矢先、彩人は足に痛みと重みを感じていた。
「あの、先輩、そこは地面じゃなくて僕の足です」
「だから?」
「どけていただけたらなあと」
そう言うとますます力強く踏みつけられた。
「いた、痛いですって先輩!」
「私とのデートの待ち合わせに他の女連れてくるなんていい度胸してるじゃない」
「いや、さっきも言いましたけど家の前で会っただけなんですって」
「でも一緒に来たらこうなることぐらい想像ついたわよね?」
「それは……」
「何か言うことは?」
「……大変申し訳ございませんでした」
「わかればいいのよ」
そう言って最後にダメ押しの一踏みをして由依は足を退けた。
「痛!」
「じゃ、向かいましょ」
「まだジンジンするんですけど」
「自業自得よ」
彩人と由依は目的地に向かう電車に揺られていた。彩人の最寄りから鎌倉までは一回乗り換えを挟んで一時間半ほどで到着する。決して栄えてるとは言えないが、交通の便が良いことがこの町に住み続けてる理由でもある。
「さっきの女の子と仲良いの?」
「その話はもう終わったのでは……」
できれば違う話題に変えたかったが、由依の視線はそうすることを許してくれない。
「さっきも言った通り、隣の席の女子です。クラス替えの日に話しかけてきたんですが、この学校にまだ向こうから僕に話しかけてくる人がいるんだと驚きました」
彩人は学校で浮きまくっているので話しかけられるという事はほとんどない。あったとしても業務連絡ぐらいだ。
「高校からこっちに越してきたらしいんですが、家が近いみたいんなんです。それでさっきはあんなことに」
「ふーん、それで朝から可愛い同級生とイチャイチャしてたわけね」
「確かに雨音は可愛いですが僕は先輩一筋です」
「デート中に他の女のこと可愛いとか言うんじゃないの」
「痛!」
由依のデコピンをくらった彩人を横目に由依は続ける。
「今日の私に言うことあるんじゃないの」
ほんのりと頬を赤く染めながら伏目がちにそう言った由依のあまりの可愛さに彩人は思わずニヤつきそうになったが、バレたらまた怒られるので真顔で会話を続けた。
「私服もめちゃめちゃ似合ってて可愛いです」
「言うのが遅いのよ」
照れ隠しなのかもう一発デコピンを彩人に食らわせて、由依は満足そうに窓の外に目を向けた。
「いい天気ね」
「そうですね、デートにぴったりです」
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