第2話 転生
目を覚ました俺は磯臭さに顔を歪める。俺は……どうしたんだっけか? ここはどこだ? 海の近くにいるのだろうか?
辺りは一面真っ白で俺は白い布で目隠しでもされているのかと一瞬思ったが、自分の体はちゃんと見えるし、手で目元を触れてみても目隠しはされていなかった。
「君は、トラックに轢かれて死んだんだよ」
背後から突然声をかけられて振り向くと、バイクぐらいの大きさの巨大なカメがいた。
「……は? カメ? 今こいつが喋ったのか?」
「そうだよ。僕はカメでもあり神でもある」
「なんなんだ? これは。俺は夢でもみているのか?」
「夢ではないよ。ここは世界と世界の狭間。どこでもない世界。世界になる前の世界。君はトラックに轢かれて死んだ、ということにしておいた。覚えていないかい?」
「ということにしておいたってどういうことだよ……でもそう言われてみると、ナスチャを探している時に国道でトラックに轢かれたような……」
俺の脳裏に迫り来るトラックのヘッドライトの明かりが思い浮かぶ。これが俺の死んだ時の記憶だろうか。断片的なイメージだけが頭によぎる。脳にダメージを受けて記憶が飛んでしまったのだろうか。
「
心なしかカメのセリフが棒読みというか、決まり文句を言っているように聞こえる。意味わからんぞ? そもそも俺は本当に死んだのか?
「異世界転生? なろう小説みたいなやつかよ。そんなのどうだっていい。お前が神だって言うなら俺をさっさと元の世界に返してナスチャを見つけ出してくれよ」
「橋渡アナスタシアのことなら、君のいた世界にはもういないよ」
「は?」
カメはぐにゅにゅっと甲羅から頭を長く突き出して、言葉を続ける。
「橋渡アナスタシアは兎を追いかけてワームホールへと入り異世界へと飛んだ。君のいた世界にはもういないよ」
「なんだよ、それ。ってかそれって不思議の国のアリスじゃん。冗談で言ってんのか?」
「嘘じゃないよ。現に君は今こうして異世界のうちの一つにいるわけだが、それでも信じられないのかい?」
「俺の頭が狂って幻覚を見ている可能性の方が高いだろうな」
「その君が言う幻覚だって異世界のうちの一つだけどね。いいかい、君が信じればどんな世界だって本物として立ち現れる。意思は世界を作るし、世界は意思を作るんだ。もし君が橋渡アナスタシアを願うなら、彼女がいる世界を願うしかない。彼女は一足先に異世界〈ウクバール〉に行ってるよ」
〈ウクバール〉だと? ナスチャが延々と絵を描き続けていたやつじゃないか。
「あぁ、君が不甲斐ないばかりに彼女を見ず知らずの世界に放り出してしまったのだ。たった独りで、頼るあてもなく。可哀想に……。もしかしたら今頃ひどい目に遭わされているのかもしれない」
「ひどい目にあっているのか!? おい、カメ! お前が知っていることを全部教えろ! ナスチャは無事なのか? どこにいるんだ!?」
俺はカメの首を掴んで揺さぶる。振り回されたカメの口から唾液が撒き散る。カメはそんなことは意にも介さず続ける。
「それは君が行って確かめるしかない。異世界転生、してみるかい?」
「あぁ、わかったよ。異世界でもどこにでもいってやる。早くナスチャのところに送ってくれ」
「その言葉を待っていたよ。では、よい旅を」
カメがそう言うと白い世界が急速に黒く塗りつぶされていき、暗黒が全てを覆った瞬間、俺は意識を失った。
姪っ子探して異世界転生 イカのすり身 @ikanosurimi
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