姪っ子探して異世界転生
イカのすり身
第1話 死
高校生の頃ある二次元キャラの絵を額縁に入れて部屋に飾っていた俺は、毎日それを見て祈っていたし、毎日それを見て抜いていた。それは当時の俺にとって生きるために欠かせない儀式であったし、実際にそれをしていなければ俺はとっくに死んでいたかもしれない。中学高校でいじめられぼっちを貫いていた俺はそうやって自分だけの世界やら神やらを作り出していたのだ。
そんなこともあったが、紆余曲折を経て昔のことはすっかり忘れた俺も今年で35歳。東京の商社で働いていたが一昨年うつ病を患い仕事を辞め、今は静岡県
仕事を辞めて夢の引きこもり生活だぜイェーイとは当然ならず、バッドモードに突入していた俺は毎日死ぬことを考えていた。死ぬことを考えることにも疲れた俺はどうやって脳内麻薬を分泌させてハッピーになれるかについてネットで調べまくり危ない薬を作り出そうと画策していた。もし本当に作ったらその薬には〈ヘブンズゲート〉と名付けるつもりだった。そんなヤバいやつ一歩手前だった俺を救ったのは妹の娘、つまり姪っ子のナスチャであった。
妹の
その時まだ5歳のナスチャは日本に送られ俺と生活を共にする。うつ病真っ盛りであった俺は正直自分のことで手一杯であったが、ナスチャに「こーうんーお外で遊ぼうよー」とぽこぽこ殴られて仕方なく外に出て鬼ごっことかをして体を動かしているうちにうつ病は徐々に回復していった。俺の両親も孫であるナスチャを人形のように可愛がった。母が死んで寂しいはずが涙ひとつ見せないナスチャ。俺は大人としてもっとしっかりしなくてはいけないのだ。水月の代わりにナスチャを育てていくのは俺の役目なのかもしれないと俺は思っていたが、とはいえすぐに働き始めることもできずにナスチャと一緒に遊ぶだけの日々を送っていた。
そうして一年ほど経つ。6歳になったナスチャは実家にインテリアとして置かれていたブリタニカ百科事典を絵本の代わりに読んでいた。ブリタニカを床に広げて寝転び、足をぷらぷら揺らしながら「ふむふむ」なんて読んでいるナスチャを見て、俺は本当に理解しているのか怪しいとは思っていたが、好きにさせていた。自分から知識を得るのは悪いことではない。いや、むしろ間違いなく良いことであるはずだ。知識への欲望か成長への欲望かは知らないが、何か彼女を駆り立てるものがあるのだろう。もしかしたらただ単に暇だからかもしれない。どんな理由であろうとも、知識を得ることは良いことだ。
ナスチャはブリタニカ百科事典をあ行から順に読み始め、う行で〈ウクバール〉という単語を見つけ「ここ、私が住んでいた場所だ!」と嬉しそうに俺に報告してきた。
「へぇ、そうなんだ。どんな場所だったの?」
「えっとね、えっとね。〈世界の中心〉があってね、たまに隕石も落ちてきてね。あと頭が5個ある犬もいてね」
「ははは、それはすごい場所だ」
「ほんとだよ! 絵を描いてあげるね」
そうしてナスチャはノートに色んな絵を描き始める。俺は子供の無垢な想像力というものに感銘を受けていた。なるほど、こういう妄想を膨らませながら百科事典を読んで楽しんでいたのか、と。ただナスチャの想像力は止まることを知らずに〈ウクバール〉の絵を描き
ここまで偏執的に謎のファンタジー世界の絵を描き続けるのはちょっとまずいのではないかと思い始めた頃、ナスチャは突然姿を消した。俺が昼ごはんのカレーライスを作り「今日は試しに隠し味にパイナップルを入れてみたんだ」とナスチャを呼びに行った時、部屋には〈ウクバール〉のノートと色鉛筆が床に転がるだけでナスチャは影も形もなかった。それから町中を探し警察にも捜索届けを出したが、ナスチャは見つからなかった。
そして俺は昼も夜もナスチャを探し続けて当てもなく走り回り、その途中で死ぬ。
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