第8話涙を見せるのはお姉ちゃんだけです

学校から帰ってきた俺は布団にダイブした。

スマホにはいくつもの通知が来ていた。

樹からの心配の連絡ばかり。

本当のことを言おうか悩んだ末


『ごめん、体調を崩して当分学校に行けない。』


嘘をつく事にした。

友達に嘘をつきと胸が締め付けられるように苦しくなる。

でも、こんな事教えられない。


「紅桜、帰ったのなら一度手を洗って。後、ダイブするのはいいけれど、制服を脱いでからにしてよね。」

「うん。」

 

帰ってから数分もしないうちに怒られてしまった。

でも、怒られている感覚がない。

樹に嘘をついた事や、学校の事。

どちらにも胸を締め付けられて苦しい。

今すぐに寝て忘れたいような気持ちで、体を動かす気持ちが起きない。


「紅桜、だから先に手洗いを――どうしたの!?学校で何かあったの!?」


勉強をしていたはずの氷柱姉が、慌てて駆け寄ってきた。

また迷惑をかけてしまった。

胸が痛くなる。

今日は最悪な日だ。

上手くやろうとしても、結果が悪い方に出る。


「ハンカチを貸してあげるから、涙を拭きなさい。」


俺はいつの間にか涙を流していた。

布団の上は涙で濡れている。

流れる涙を止めようとしても、流れる量が増えるだけだった。


「学校で何があったの?悲しいことでもいわれた?」

「…‥‥女装男って言われた。それに気持ち悪いって。……そんなの、1番俺が分かってるのに。…こんなのおかしいって1番分かってるのに…。」


情けなく言葉が出てくる。

実の姉にこんな情けない姿を晒しながら、弱音ばかり吐く。


「おかしくない!!紅桜は気持ち悪くもない!!」


俺は卑怯だ。

氷柱姉に言えばちゃんと否定してくれるって分かっていた。

こんな俺を肯定してくれることなんて分かっていた。

自分はまともだと言ってくれる氷柱姉に縋ろうとして最低だ。


「紅桜は、いつだって自分のことばかり卑下する。それが普通のことだって思ってるだけなの。でも、卑下する事なんて無い。真面目でいい子なのに、それを否定する方がおかしいの。だから、大丈夫よ。」


やっぱり、氷柱姉は俺を肯定してくれる。

こんなどうしようもない弟をちゃんと受け止めてくれる。


「氷柱姉、ありがとう。」

「いいのよ。紅桜の事は私が1番理解してるんだから。紅桜は普通の人と変わらないことぐらいとっくの昔に知ってるわ。」


今度は違う意味で涙が流れてくる。

暖かい涙が、氷柱姉の服を濡らしていた。


「――それと、私との約束も守っていてくれたのね。」


氷柱姉との約束。

それは、喋り方も女性らしくすると言うものだっだ。

見た目が女性なのに男性のような喋り方をしていては浮いてしまうとのことで約束していた。


「今日のこともあるから今度からは無理にしなくていいわ。

「氷柱姉が俺のためを思ってでしょ?だから、その、今後も続けるよ。」


顔が赤面したのが自分でも分かった。

その仕草が可愛かったのか、いきなり抱きつかれてほっぺをすりすりされた挙句頭もなでなでされた。




――――――――――――――――――――――

―――――――――

――――

――




「落ち着いた?」

「うん。氷柱姉のおかげで気持ちが晴れたよ。」

「それは良かった。…で、誰に言われたの?」


一瞬、世界が凍った気がした。

氷柱姉の目が鋭くなって、背中から何か危ないものが出ている気がする。


「誰に悪口言われたの。名前は?住所は?」 

「氷柱姉、なんでそんなこと聞くの?」

「だって、そいつに文句を言いに行けないでしょ?」


文句を言いに行かなくていいよ!?

私はそんなこと望んでないよ!?

それに、若葉先輩に聞いたけど、満さんは彼女なりの理由があって特別クラスにいるらしい。

黒咲さんも問題を抱えているからあそこにいるんだ。

みんな元のクラスにいられない理由があるから、特別クラスに逃げてる。


だから、新しく入ってくる人をよく思わないのはよくわかる。

氷柱姉には悪いけど、そんな事をしてほしくない。

俺たちのクラスの問題だから俺たちで解決したい。


「分かったわ。でも、学校には連絡さしてもらうわよ。紅桜が傷ついた事には変わりないもの。」


氷柱姉は大人だからちゃんとした応答で連絡するよね?

単なる悪質クレーマーみたいな文句を言うために学校側に連絡を入れないよね?

少し心配をしながら、心の中で祈った。


次の日、登校すると昨日のような目に会う事はなかった。

異様の眼差しで見られてはいたものの、誰かに止められるような事はなかった。

保健室に行くと、先生と若葉先輩、黒咲さんがすでに待っていた。

だけど、満さんの姿は無かった。

多分俺が来ると思っての事だと思う。


「紅桜ちゃんおはよう。今日もかわいいね?化粧とかしてるの?」

「えーっと、何もつけてないです。」

「すっぴんで、そんなにかわいいの!?」


こんな感じで若葉先輩はラフに接してくれる。

友達のような距離よりも近い気がするけど、私から近づいていけなんからとてもありがたくて嬉しい。


「あのー、満さんはまだ来てないんですか?」

「そうなんだよね。美和ちゃんがお家まで行ってくれたらしいんだけど、いなかったらしいんだ。」

「いま、せんでした。」


弱々しくと答えてくれる黒崎さん。

昨日から思っていたけど、若葉先輩が質問した場合はちゃんと答えてくれるみたい。

俺が聞きたい事があれば、若葉先輩に頼る事にしてみよう。

 

「そろそろ時間ですし、今日も張り切って勉強しましょう。」


時間になっても満さんは来ないので、昨日と同じような感じで時間はすぎていった。



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放課後になると、若葉先輩の誘いで3人で帰る事になった。

2人と仲良くなるためにもついていく事にした。

3人で行ったのはよく行っていたショッピングモール。

普段は百々姉と化粧品をみに来るけど、今日はどんなことをするんだろう?


「美和ちゃん、いつもの所からでいい?」

「大、丈夫、です。」


黒崎さんはいつもの所がどこなのか分かっているみたいだった。

3人、もしくは、2人でよく来てるのかな?


「紅桜ちゃん、人も多いからちゃんと付いて来てね。」

「は、はい///」


高校生にもなって言われるとは思ってもいなかった。

少しだけ顔が赤くなってしまう。

俺は二人の後ろを静かについて行った。

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