第7話またしても貞操が!?

「あれー?新入りさん?」

「こ、怖いです。」

「小学生?」


机を囲んで3人の女子生徒が椅子に座っていた。

そして、飲み物を用意している女性もいた。


「ごめんね。今手が離せなくてね。ついでに聞くけど、コーヒー飲める?」

「飲めます。」


こちらを向くことなく5つのカップにコーヒーを注いでいた。

注ぎ終えると、やっとこっちに顔を向けた。


「いやー、保健室の方にいなくて。ごめ―――誰?」


やっとこちらを向いたかと思うと、『誰?』と質問されてしまった。

俺がここに来る事は知らせてあると聞いていたんだけど、伝達ミスでもあったのだろうか?

でも、ちゃんと名前は名乗ってるから分かってもらえるはずなんだけど。


「えっと、2年霜雪紅桜です。今日から、特別クラスに入る事になりました。」

「あなたが霜雪君ね。面影が全然ないからわからなかったわ。立ち話もなんだしこっちに座って。」


先生に案内されてみんなの前に座らされる。

1番年上そうな人は目を輝かしていた。

残りの2人は怪しいものを見る目。


「先生、転校生ですか?」

「元からいましたよ。」

「本当ですか!?私が知らない生徒がいたなんて…。」


目を輝かしている人は物珍しそうにみてきた。

他の2人との温度差が異様に目立つ。


「霜雪紅桜さんだったよね。私はね、3年の若葉わかば夜宵やよいだよ。こんな可愛い子がいたなんてびっくりだよ。これからはよろしくね。」

「よろしくお願いします。」


握手も求められた。

握った手はほんわかと暖かく彼女から滲み出る優しさのようなものだった。


「一つ言っておきますが、霜雪さんは男ですよ。」

「!?」


唐突に先生がカミングアウトして若葉先輩は固まってしまった。

俺もいきなりだったので心臓が止まりそうになった。


「男が女装って、キモっ。」


そして1人の女子から胸に突き刺さる強烈な一撃。

分かってはいたけど、これほど心を抉られるとは思わなかった。


「……はっ!?つい頭が真っ白に!?先生、本当に紅桜ちゃんは男の子なんですか!?どう見ても女の子じゃないですか!?」

「なら、自分で確認してみたらどうですか?」


この流れ知ってる。

脳に赤信号が流れてる。

百々姉の時に感じた感覚。

だけど、時すでに遅しだった。


「なっ、ないじゃないですか!?やっぱり女の子じゃないですか。」

「きゃっ!?」


スカートは捲られ、パンツの上から触られていた。

急いでスカートを押さえるもまた貞操を守れなかった。


「そうですね。今は女の子ですが、ほんの数日まで男だったんですよ。TS病にかかったらしいんです。」

「それで私が知らなかったのか‥‥。」


俺のことは気にせず2人だけで話が進んでいく。

どちらにしろ、若葉先輩は納得してくれたようだった。


「お二人も自己紹介をしたらどうでしょうか。」


先生は残る2人の生徒に言った。

そして、さっき辛辣な言葉を言っていた子から喋り始めた。


「私はみちる散琉ちる。あなたと同じ2年生よ。」

「よろしくお願いします。」


自己紹介をされたものの何処か変なものを見るような目。

やっぱり、俺のことをあまりよく思っていないのかもしれない。


「私は、黒咲くろさき美和みわです。1年生です。」

「よろしくお願いします。」


見た目はどう見ても俺より高い。

ただ、黒咲さんの後ろに隠れているところを見ると、1年生らしさはある。


「これで自己紹介も終わりましたので授業を始めていきましょうか。」

「まって!?なんでそうなるの!?」


先生が授業を始めると言った途端、満さんが声を荒げた。


「なんでこんな女装男と一緒に授業しないといけないんですか!?」


女装男……。

すごく泣けてくる。

自分がこれまでしてきたことの全否定が、心を抉った。


「満ちゃん、そんな言い方したらダメだよ。紅桜ちゃんは、今では立派な女の子なんだよ?」

「ただの変態の間違いじゃないですか!?しかも、喋り方も女子っぽくして、主語も『私』。キモすぎるんですけど。」

「うっ……。」

 

胸が痛すぎる。

心を支えていた柱が全ておられてしまって膝をついてしまった。


「紅桜ちゃん、大丈夫!?…満ちゃん、流石に今のは酷いよ!!」

「私はね、もともとここも好きじゃなかったのよ!?あんたが来てからここも変わって、それでも許容してあげてたのよ!?なのにまたそうしろっていうの!?それこそ信じられないわ!クラスと同じならここにもう来ることはないわ!」


その言葉を漏らすと、満さんは保健室を出て行ってしまった。


「あー、これはどうしましょう。」

「わ、私、が、追いかけてきます。」

「分かりました。黒崎さん。」


そう言って、黒咲さんも後を追って出て行った。


「紅桜ちゃん、大丈夫?」

「すみま、せん。私は大丈夫、です。」


とは言ったけど、心の中ではそれなりに傷ついていた。

今までの自分を全否定されて、笑顔でいる事で精一杯。


「ごめんね。満ちゃんは本当はもっといい子なんだよ。でも、人と関わることが苦手みたいでね、紅桜ちゃんもきっと仲良くなれるはずだから、嫌いにはならないで欲しいかな。」


その後、満さんは帰ってこなかった。

黒咲さんによれば、本当に帰ってしまったらしく、これ以上言うのはやめた方が良いらしい。


その後は3人だけで授業をする事になった。

科目に関しては全員統一で、勉強範囲だけそれぞれの進行速度に合わせてだった。

勿論分からない事があれば先生でも若葉先輩でも相談すれば教えてくれる。

勉強に関しては全然問題はなかった。


でも、休憩時間は地獄のようだった。

若葉先輩がいる間は俺と黒咲さんとの間を持って話を振ってくれたりした。

ただ、若葉先輩は忙しい人なのか休憩時間に居なくなる事が多く、戻ってくるまで時間がかかる。


その間、黒咲さんは無口のままで、何を話せばいいのか分からない。

俺と彼女の間に気まずい空気が流れる。

だけど、そう思っているのは俺だけなのか黒崎さんは平気な顔で過ごしていた。

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