第5話襲われました

氷柱ひち姉、なんであんなこと言ったの!?」

「?なんのこと?」


身に覚えがありませんって顔。

百々もも姉に言ったことが悪いことだって分かってないな!?


「百々姉に俺の方から襲ったって言ったでしょ!?」

「ああ、それのこと。別にいいじゃない。」

「よくないよ!」


倫理的問題を持ち合わせていないの!?

この姉、どう育てたらこうなるの!?


「俺、百々姉に襲われそうになったんだから。」

「へー………んっ!?襲われたの!?」


流石に想定していなかったのか氷柱姉が本気で驚いている顔になった。

でも、少し早とちりをしてそうだったので改めて言い直した。


「いや、途中でおじさんが来てくれたから助けてもらえた。百々姉はそのおじさんに連れて行かれて‥…警察のお世話になったよ。」

「警察のお世話……。百々は本当に変態ね。」


あなたもだよ。

とはツッコミはしなかったが、そう言う視線だけ送った。

気づいてはもらえなかったけど。


「おじさん元気にしてた?」

「してたよ。……片手で娘を抱えられるぐらいはね。」


百々姉のお父さんのことを僕たちはおじさんと呼んでいる(ご本人からの提案)。

百々姉と氷柱姉が仲がいいのと、俺がこのアパートに住んでいるのもあってそれなりによくしてもらってる。


「で、おじさんは気付いてたの?」

「お嬢ちゃん大丈夫だったかって聞かれて頭撫でられたよ。」


すぐさま百々姉を警察に連れて行ったので、誤解は解けなかった。


「ま、明日には謝りに来るだろうし、その時に誤解を解けばいいんじゃない?」

「うん、そのつもり。」




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後日、思っていた通りおじさんと百々姉がやってきた。


「おじさん、いらっしゃい。話は聞いてるから上がって。」

「すまないな。」

「お邪魔します。」


百々姉は隣におじさんがいるせいかどこか弱々しかった。

それに、頭の上に大きなたんこぶができていた。


「お嬢ちゃん、昨日はうちの娘がすまんかったな。」

「いえ、助けていただきましたし、こちらこそいつも助かってますのでお気遣いなく。」


おじさんが頭を下げる。

ついでに百々姉も無理やり頭を押さえつけられていた。


「こんな礼儀正しい子を……、この娘は!お前からもあやまらんか!」

「いだいいだい!!!ごべんなざい!ごべんなざい!」


どんどん押さえつけられる力が増しているのか、百々姉の叫びが増していく。

流石に百々姉が可哀想だったので、そろそろ手を離してもらうことにした。


「それにしても、氷柱ちゃんのところにまだこんな子がいたなんてな。紅桜君も礼儀正しい子で‥…そう言えば、今日はいないな?どこかに行ってるのかい?」

「いえ、弟ならいますよ?」

「?」


おじさんの頭に"?"マークが浮かんでいるのがわかる。


「もしかして、まだ寝てるのかい?この前体調崩したそうだじゃないか。」

「確かに体調は崩していましたが、今は目の前にいますよ?」

「?目の前は妹ちゃんしかいないぞ?そういえば、おじさんの名前を名乗っていなかったな。おじさんは俊介しゅんすけって言うんだ。」


そう言ってペコリと頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします。」


俺もつられて頭を下げてしまった。


「お嬢ちゃんの名前を教えてもらってもいいか?嫌なら、こたえなくていいんだけどな。」

「だ、大丈夫です。」


俺は一息つく。

だんだんと早くなる鼓動を抑えながら、決心を決める。


「し、霜、雪、あ、です。昨晩は、ありがとうございまちゅた。」


自分で言うのはなんだけど、ここまで緊張することなんてなかっただろ。

それに、最後噛んでるし。

もぅ!なんでだよ!


「?今、紅桜って言ったかな?それはお兄ちゃんの名前だよな?それとも、読み方が同じだけで漢字が違うのかな?」

「漢字も読も、一緒、です!」

「そうか…。紅桜ちゃんの両親は名前の付け方が独特なんだな。」

「そもそも、同一人物ですから、名前が一致するのは当たり前なんですよ?おじさん。」

「?」


おじさんは首を傾げてしまった。

同一人物ということの意味に対して困ってる。


「おじさん、紅桜はねTS病にかかったのよ。だから、今は女の子なの。」

「TS病、って言えばアレかい?性別が変わるっていうやつかい!?」

「そうです。」


氷柱姉に言われた後、俺の方を何度か見ていた気がする。

あくまでも恥ずかしくてずっと俯いていたので自信過剰かもしれないけどそう思ってしまった。


「??、本当に紅桜君なのかい!?」

「ひゃ、ひゃい!」


いきなり名前を呼ばれたので、声が裏返ってしまった。

今日は恥ずかしいことがたくさん起きる日のようだ。


「そうだったのか……それなら言って欲しかった、とは思うが、俺なんかに言うのもそれなりに考えたんだろ?」

「…は、はい。軽蔑されるんじゃないかって、思いました。」

「よく頑張って話してくれたな!俺は‥‥今は紅桜、君、ちゃんどっちだ?」

「呼びやすい方でいいです。」

「じゃあ、紅桜君。俺は見た目が変わろうが君のことは軽蔑なんかはしない。だから、俺みたいなので頼りないかもだが、何かあったら相談してくれ。」

「はい!」


心が温まる。

親に理解されなかったからこそ、こうやって自分を理解しようとしてくれるおじさんには頭が上がらない。


「にしても、なおさら謝らなければいけないな。知人のしかも男子を襲うとは……」

「ごめんなざい、ごべんなざい…」


場の空気が一気に寒くなる。

それを颯爽に感じ取った百々姉が早口で謝罪の言葉を連呼していた。


「お、おじさん、僕はもう気にしていないので百々姉を許してあげてください。」

「紅桜ちゃん…!!」


希望を見出したかのように顔を輝かせる百々姉。

おじさんも俺がこう言ったからかこれ以上言えない状態になった。


「紅桜君が言うならしょうがない。それじゃあ帰らしてもらうよ。今日は邪魔したな。」


そう言って立ち上がったおじさん。

それを真似するように百々姉も立ち上がった。


「あれ?もう帰っちゃうの?てっきりお昼も食べると思って4人分作っちゃったわよ?」

「そうだったのか。それじゃあ、せっかくだから食べさせてもらうか。」

「やった!氷柱ちゃんの手作りだ!」


さっきとは大違いにはしゃぐ百々姉。

怒られて反省はしているつもりなんだろうけど、スパッと切り替わったからおじさんの目が少し鋭くなってるよ。




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みんなで手を合わしてごちそうさまでしたと感謝の言葉を送る。

食べ終えた皿を台所を運んでいく。

この体のせいで一気にたくさんは持って行くことはできないけど、それでも少しずつ運んでいく。


「こう見てると、妹ちゃんがお姉ちゃんの家事の手伝いをしてるみたいだね。」

「お前も手伝ったらどうだ。」


頑張って運ぶので精一杯だけど、見ている2人はどこか微笑ましそうな顔だった。


「昼ご飯まで用意してもらって悪かったな。いつかまたお礼はするよ。」

「楽しみに待ってます、おじさん。」

「紅桜ちゃん、氷柱ちゃんまたね!」


百々姉はとっくに元気を戻していつも通りだった。

玄関からのお見送りだったけど、嬉しそう。

俺も家族団欒みたいな食事ができて嬉しかった。

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